真田ピロシキ

バットマン/マスク・オブ・ファンタズムの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

4.5
昨日のニンジャバットマンが考えれば考えるほどムカツキが募ってきてもうバットマン自体バートンとノーランの映画以外は全処分しようかと考え始めていたがこれを見て思い留まれた。ありがとう。やっぱりバットマンは素晴らしい。

1993年製作のこのアニメはニンジャやDCEUの酷いバッツは元より、ダークヒーローぶりながらDCコミックの人気ヒーローとしての営業もしなくてはいけない歪なキャラクタービジネスから解き放たれている。ノーランがヒーローはバットマンだけの世界を描ききったように純粋であるためにキャラクターに迫れた真剣な物語がある。両親の仇を取るために自警団員としての生を決意するもブルースとしての幸福を得られそうになると決意が揺らぐ弱さ。その幸せは運命のいたずらによって阻まれてしまうが、バットマンというキャラクターで不毛な殴り合いをするより平凡な大富豪として慈善活動に尽力していた方がずっと意義があったに決まっている。両親の恨みはブルースへ課せられた呪い。こうした哀しさはカッコイイヒーローを描き続かなくてはいけない世界では顧みられない。そんな世界では例えブルースがバットマンを辞める決意をしたとしてもどうせ話の都合で戻されてしまうのだから。

この映画がキャラクタービジネスに堕していないのはバットマンと対峙する悪役の描写にもあってコスチュームヴィランに属するのはファントムとジョーカーのみ。ジョーカーには客寄せ要員の意図がかなりあるのだが、世界観と設定に嘘をつかず存在しているのでジョーカーが心底嫌いな自分でも拒否反応はない。マーク・ハミルもしくは青野武のこのジョーカーは好きなくらい。スコットスナイダーが書いてたようなクソくだらない最強厨の後出しジャンケン設定盛りキャラではなく、殴り合いに持ち込まれるとぶっちゃけ弱い。ファントムに追い詰められて「やっベーもう打つ手がないわ」と言ってたのは本音で、ギャングにあっさり殺されてたとしても何ら不自然ではない。コイツ自身がジョーカーになる前は普通の冷酷なギャングの1人。そうした常人が基本的な脅威になってるから現実に寄せたバットマンの設定にも意味があるわけで、スーパーマンと同じフィールドで活躍するのにそこらの強盗に手こずっているのは茶番としか思えない。強さを指標にするからどんなに大人ぶっていても幼稚なストーリーになる。映画だけで良いからバットマンは敵を殴り倒す強さがなければいる意味がないクロスオーバーから独立させて欲しい。

バートン版からテイストを受け継いだ本アニメシリーズはゴシックでアール・デコ調のビジュアルが特徴的。立体的な冒頭のシークエンスも味わい深い。元がTVシリーズなので対象年齢は低くされているのだが、裾野はエロとバイオレンスに頼っただけの大人向け気取りより広い。個人的オススメは内気な善人だったマッドハッターが嫉妬から悪人へと変貌していくエピソードとフリークスの集落に逃げ込んだキラークロックが怪物だったのは見た目ではなく内面だと明かされるエピソード。ハーレイクインのデビュー作なのも重要でこの頃から既にポイズンアイビーとはほぼ百合カップル。残念ながら日本語版のBlu-rayBOX等は出ていないのでカートゥーンネットワークで放送されるのを待つかバットマンのアニメでたまに映像特典に入ってるのを見るしかない。バットマンのファンなら手間をかけてみるだけの価値は感じられると思う。