だいすけ

わが谷は緑なりきのだいすけのレビュー・感想・評価

わが谷は緑なりき(1941年製作の映画)
3.5
ノスタルジー溢れるモーガン一家の物語。

今まさに故郷を離れようとする主人公ヒューの回想によってストーリーは進行していく。冒頭のシーンは非常に牧歌的で朗らかな気持ちになる。モノクロにもかかわらず、ヒューの抒情的な語り口によって、ロンダの谷の緑がありありと目に浮かぶようだ。アイルランド出身のジョン・フォードは、自身の故郷を想いながら本作を手がけたらしく、郷土愛に満ちた作品となっており、特に冒頭のシーンはその傾向が顕著である。

ところが、炭鉱のストライキを発端に、美しい村の暗部が露呈し始める。ストライキに反対した父は石を投げられ、不貞を疑われた姉は陰口を叩かれ、ヒューは貧困を理由に軽蔑される。モーガン家の人間が誠実であるのと対照的に、人間の不実があからさまに描かれている。さらに、炭鉱の劣悪な労働環境を原因とした悲劇、働き口がなくやむを得ず故郷を後にする兄弟たち、貧困を理由に愛のない結婚を余儀なくされた姉と、過酷な現実を無遠慮に突きつける。

こうしてモーガン家は離散してしまう。かつて愛した故郷の姿はもはやない。それでも、ラストシーンにおいて冒頭のモノローグと古き良き時代の映像が反復されることが示すように、郷里の思い出は永遠に理想郷として心の中に存在し続ける。美しい思い出は、何人たりとも奪うことはできないのだ。
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