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バッド・チューニングのnetfilmsのレビュー・感想・評価

バッド・チューニング(1993年製作の映画)
4.0
 自己主張の強いアメ車がゆっくりと駐車場に押し込まれ、学生たちは思い想いのやり方でジョイントを巻きながら、煙に火を付ける。夜の光に集まる虫たち(若者たち)はその燻した匂いに魅了され、車のサイド・ボディにもたれ掛かりながら太巻きを楽しむ。アメリカ合衆国テキサス、1976年5月28日の就業日、パーティは9時半に始まるという多幸感だけが彼らを支配する。ランドール・フロイド通称ピンク(ジェイソン・ロンドン)は今夜のパーティに気もそぞろで、下級生で野球部でピッチャーでエースのミッチ・クレイマー(ウィリー・ウィッギンス)はガキ大将の先輩たちに目を付けられ、戦々恐々としている。200日目の終戦記念日を祝おうと先生が言った矢先、女学生たちは先輩に空襲警報の練習だと無茶振りされる。プロポーズの練習だと称し、男の先輩たちに求愛させられる姿は今では立派なセクハラだがこの時代は違う。洗車室に入れられた車を出て、強烈なシャワーを浴びる女学生たちの高揚感。一方、主催者の家では1時間半前に届いたビア樽に父母がざわつき始めた。いかにも中流階級の一家の暮らし。部屋でマリファナを吸う男子学生たちは思い通りにならない夜の計画に苛立つ。その一方で、一匹狼のデイヴィッド・ウッダーソン(マシュー・マコノヒー)は意気投合したミッチを引き連れ、街のビリヤード場にやって来る。

 1980年の夏休みのテキサスを描いた『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』のプロトタイプとも呼ぶべき物語は、4年前の終業日の多幸感に満ちた一夜を描き出す。だらだらとした日常と登場人物たちの自堕落な感情、冗長な会話はここでも冴え渡るが、たった1年間のレイヤーの違いが上級生たちと下級生たちを決定的に分かつ。下級生たちは未来に希望を託すが、上級生たちは未来に言いようもない不安を抱えている。下級生たちの中からターゲットを見つけ、百叩きする行為は、先輩たちの将来有望な学生への嫉妬に他ならない。ミッチは初めて出会ったデイヴィッドに兄のような親近感を抱きながら、大人へ向かうイニシエーションの主題を纏う。突然放り込まれるボーリングの球、AUTO MACHINE SHOPの屋上から悪ガキに放たれた汚物、KISSのかかし人形、マイクの喧嘩。鉄塔を登る上級生たちの焦燥感はやがてアメリカという国に呑み込まれる。例えそうだとしても、今日の日の一瞬を楽しむことに精を出す。Deep Purpleの『Highway Star』、Alice Cooperの『School's Out』、Black Sabbathの『Paranoid』らに彩られた物語は、エアロスミスの最前列を約束した束の間のヒーローの誘惑、コートに佇む少年少女の焦燥と体制への決別、2度と戻らない今日という日に少年少女は淡い区切りをつける。
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