川田章吾

シルミド/SILMIDOの川田章吾のレビュー・感想・評価

シルミド/SILMIDO(2003年製作の映画)
4.3
大好きな社会派の作品。
国家の都合で振り回される兵士たち。教官との師弟愛。そして、自分たちの実存をかけた戦い。どれをとっても最高だった。

特に脚本がとてもいいと思う。
起承転結の転が特に良くて、国家というものがいかに自分たちの都合よく兵士を扱うのかが描かれている。政府の役人の使う愛国心というものがいかにチープなのかが印象深く伝わる転換である。

また、その転換部分の登場人物たちの葛藤の構図がいい。
鬼教官だが決して部下を裏切らないチョ二曹。優しさを持っているが自分の保身を考えてしまうパク二曹の対立。それに悩む老練のチェ准尉。
これまさに、人間の心の在り方を表している部分で、吉田大八監督も『紙の月』でこの構図を使っていた。チェ准尉がワザと情報を漏洩し、部下を軍人として戦わせ、そして准尉自身は全ての罪を被って死んでいく。不正がバレると直ぐに部下のせいにする日本の政治家たちにチェ准尉の爪の垢を煎じて飲めと言いたい。

ならず者たちが同じ時間を過ごす、同じ志を持ってチームを作るのは、古今東西、とても清々しく感じて「男子校的な青春」も思わせる。
そうした伏線があるからこそ、最後のシーンは感動的出し、記録に残らないけれど記憶に残したい「生き様」を描いた渾身の作品なのだと思う。

ただ、演出でいくつか上手くないところもあった。例えば、チェ准尉を684部隊の部下が殺害しようとする場面だが、あそこはチェ准尉が自殺するより絶対部下に撃たせた方がいい。
なぜなら、あのシーンは、部下がチェ准尉を乗り越えていくイニシエーションであり、そのイニシェーションを越えないと国家という強大な敵に立ち向かうことはできない。そうした気概を部下に再確認させるための大切なシーンだからだ。

また、これはフィクションだとはっきり言うべき。実話とかなり離れてしまっているみたいだから、実話を基にしたって言うと亡くなった遺族の方たちがかわいそうな気がする。

ただ、話の内容はかなり面白いので、ぜひ観るべき作品。オススメです!
川田章吾

川田章吾