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エリート・スクワッドのHKのレビュー・感想・評価

エリート・スクワッド(2007年製作の映画)
3.7
後にリメイク版『ロボコップ』、『エンテベ空港の七日間』などを撮るジョゼ・パジージャ監督によるブラジル映画。キャストはヴァグネル・モウラ、アンドレ・ハミロ、カイオ・ジュンケイラなどなど

1997年のリオデジャネイロ、軍警察の特殊警察作戦大隊、通称BOPEに勤める隊員の男は、不毛且つ無謀な任務、そしてマフィアに対する非人道的な行為をしなくてはいけないという精神的疲労から、次第に引退を考えることになる。そこで後継者探しをするのではあるが、そこに二人の警官が入隊する。

これと似た系統の映画で2002年に公開された『シティオブゴッド』という作品がありますが、あちらがファベーラに住む一般市民、特に子供視点から描いているのに対し、こちらは権力者側、特に警察側からのアプローチが非常に卓越している。

全体的にも、撮り方は前述した作品と同じく非常にコマやカットを割ってはポンポンと話しが次に動いていくスピーディーな展開が特徴。個人的には抗争からマフィアに対して拷問を行うシークエンスも、素人が撮れば明らかに間延びしていそうな箇所も、非常に上手くカット割りで省略をしており、あまりテンポが崩れることなく進むのが良い。

個人名や固有名詞がアップテンポの中で何度も繰り返されるために、序盤の二人の隊員の経緯を示すシークエンスについては、ちょっと前述したスピーディーな展開のために頭が追い付かない状況で進むため、ちょっと分かりづらかったのが難点だったかな。

ただし、物語後半、それこそ、中盤で起こる前述した抗争が勃発してから、彼ら二人がBOPEに入隊した後ぐらいから、展開は分かりやすく、よりえげつない方向にがらりと変わる。

特に訓練シークエンスに至っては、フルメタルジャケットなんかへでもない程に、最早軍人ですら泣いて逃げるほどの激しい訓練が行われる。

授業中に寝ようとすれば、手りゅう弾を手に持たされて、寝たら連帯責任だと脅迫されて授業を聞かざるを得なくなる。さらには地面一杯にまき散らされた腐っているであろう残飯を豚みたいに食べさせられるなど、ハートマン軍曹発案並みの突拍子のない映像で展開される。

映画はそこから、ナシメント大尉の後継者候補の二人に焦点があてられるのだが、片方は結局のところ、ちょっとしたことが原因で死んでしまう。

この映画は、ブラジルの腐りきった治安状況を皮肉る映画だと思いきや、最後の最期の展開を見てみると、マチアスという男がリオの裏側、真実を知ることによって段々と変わってしまう所に一番の物語性を置いているのではないのかと思いますね。

それまでは法律さえ学んで、知識でもって理性で納めれば国はもっと平和になるという信念を持っていた大学生。しかし友達付き合いでは薬漬けで腐った学生の存在には目をつぶって過ごしていた。段々とこのリオのファベーラの異常さにのまれ、ついにああなってしまうのは、恐ろしいものですね。

マフィアはマフィアでとんでもない下種野郎なのですが、BOPEはそれ以上にとんでもない軍団として描かれる。逮捕も事情聴取もしないまま、その場で拷問の後に情報を入手できれば、マスコミにばれる前に裏で葬る。ここまでの残虐行為を常態的に行えば、そりゃナシメントさんも精神病むわなと思わざるを得ない。

マフィアはマフィアで、情報をばらしたような存在は上の人間の命令によって惨殺される。ガソリンを掛けられて火あぶりの揚げ句焼殺されてしまうのは恐ろしい。流石のマフィア集団。

最早、戦争状態に近しいこの二大抗争の現実を、アクション映画的要素も見せながら、見事な群像劇で描いていると思いますね。そもそも警察だったら店の食い物をただで食えるなんて職権乱用も横行している現実に対しては、この日本がどれほど平和的なのかということをまざまざと思い知らされる。

いずれにしても見れて良かったと思います。後編もあるらしいですね。そちらはよりドンパチが激しくなってそうですね。見てみたいですね。
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