あーや

動くな、死ね、甦れ!のあーやのネタバレレビュー・内容・結末

動くな、死ね、甦れ!(1989年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

声に出して言いたい映画のタイトルってありますか?
とりあえずこれですよね「動くな、死ね、甦れ!」パンチの効いたタイトルの1989年のソ連映画です。
タイトルはとってもかっこいいのですが、映画自体は沈鬱そのもの。まず時代が終戦後のソ連。みんなが貧乏で大人も子供も生きることで精一杯。強盗もざらにいる。大人は働き、子供たちは遊ぶおもちゃもないのでひたすら外を走り回っている。人が集まればけたたましく騒ぎ、貧しさで狂いそうな心情を紛らわすかのように大声で歌い喚く。そんなスーリヤという町で暮らす主人公のワレルカはトイレにイースト菌を流して下水を溢れさせるような、イタズラっ子という言い方では足りないくらいの悪ガキ。イタズラをしては大人に叱られ、母親には怒鳴られる。序盤で母親に「ワレルカ!私の金を盗んだでしょう?!」と変な疑いをかけられ、必死に弁明するも普段の素行が悪いからか全く信じてもらえない。ガーリヤという少女が証言をしてやっと信じてもらえた次第。そのガーリヤが本編を通して唯一ワレルカの理解者であり、そして唯一の救いです。
どれだけ悪いことをしても大人にこっぴどく怒られその度に落ち込むのにまた悪いことをし続けるワレルカ。そんな彼も自作のパチンコで汽車を横転させた時には大人たちの本気捜査に身をこわばらせていた。ビビった彼は意を決して家出をし、違う街で強盗団の一味になってしまう。ある日忍び込んだ宝石店で店の男の返り血を頬に浴びたのだが、さすがに彼の顔にも戸惑いが感じられた。ただの悪ガキだった少年がここまで落ちてしまうなんて・・。しかし強盗団と行動を共にすることで悪事を働く感覚が麻痺してゆくワレルカ。そんな彼を救ったのはやはりガーリヤでした。勘が鋭くいつもワレルカの行動を見抜いてしまうガーリヤ。彼女は懸命にワレルカへ家へ帰ってきなさいと説得する。信頼していた強盗団の仲間から追われる身となったワレルカはやっと足を洗い、少年少女は汽車に乗り込んで家路につく。そのときの2人は正しく天使のようだった。ガーリヤはリンゴを食べ、ワレルカは歌を歌いながら身体を動かす。走り抜ける汽車の車輪と線路の隙間から見つめ合って笑い合う。ああ、ワレルカも今度こそは更生できるのだろうな。彼の屈託のない笑顔を見ていると誰もがそう思うでしょう。しかし、事態はとんでもない方向に。ワレルカは病院で一命を取り留めるもガーリヤは命を落とし、ガーリヤの母親は全裸でほうきに跨って喚き散らしながら走っていく。そこで急に監督の声。これは・・・何だ?何なのだろう・・?この映画はそういうテイストだったのか?演技ではない目でカメラをじっと見つめる子供たちの顔を見つめながらこちらも困惑していると、最後にまた狂ってしまった母親が映され映画が終わる。
終戦直後のソ連のため精神的に追い詰められた人間が多く、彼らの歌う歌は常時やかましい。そんな中日本人捕虜が歌う「はりまや節」や「炭坑節」が印象的だった。まさかソ連映画で日本の民謡を聴くとはね。肌を刺すような寒さのソ連で響く日本の音は意外と合っていました。
それにしてもワレルカはこれからどうやって生きていくのだろう・・。唯一の救いを失った彼はイタズラを続けるほどの元気さも失くすでしょう。運良く生き残ってしまったために、彼の今後の人生は過酷だ。狂ってしまったガーリヤの母親にも会うのだろうか。そう考えると息が詰まりそうになる。凄惨なリアリティに暫くやられてしまいました。繰り返し何度も観る気にはならないけれど、一貫した力強さを感じられる作品でした。
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