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動くな、死ね、甦れ!のSのレビュー・感想・評価

動くな、死ね、甦れ!(1989年製作の映画)
4.5
2018/02/17 京都みなみ会館

1990年、カンヌ国際映画祭、
54歳の新人監督カネフスキーが発表したこの作品によって驚きに包まれた。
ストリート・チルドレン出身で8年間無罪の罪で投獄されていた経歴の持ち主で、それまでは全くの無名だったがこの1本で世界中から賞賛される存在となる。

物語の舞台となるのは、旧ソ連の炭鉱町・スーチャンは、カネフスキーが少年時代を過ごした町。
カネフスキーが、沢山の学校を訪れ何千人もの少年の中から奇跡的に見つけ出した、ストリートチルドレンのパーヴェル・ナザーロフを主演に抜擢。
どこまでも純粋で鋭敏な自身の少年時代の記憶を、鮮明にスクリーンに甦えらせた。
また主人公を見守り危機から救う少女役に、
現在も女優として活躍ディナーラ・ドルカーロワを起用。
純粋無垢な悪童と守護天使の様な少女が織り成す“映画の奇跡”。


第2次世界対戦直後、兵士たちの収容所とかしたソビエトの極東の貧しい炭鉱町。
殺伐としたこのスーチェンでは兵士達は強制労働を強いられている。
主人公の少年ワレルカは母親と二人暮らし。
その母親は自宅に連れ込んだ愛人と平気で情事を行い、それをワレルカが簡単に目にしてしまえる荒んだ家庭環境にいる。
安らげる場所のない少年。
唯一の家族である母親の愛情をも得られず満たされない子供心。
そのせいで、学校でも近所でもいたずらの延長で常に悪事を働いている。
ワレルカが唯一心を許せるのが少女ガリーヤ。
二人は淡い恋にも似た感情で繋がっている。


「ドキュメンタリーとフィクション」の境界、と是枝裕和監督が評価しているが正にその通り。
平穏に暮らせる環境とは程遠い残酷な状況下で、瑞々しい感性やどうしようもない痛々しい心の叫びが映像とともに遅いかかる。
又、辛辣な映像はモノクロの世界と相まってとてもリアルに感じる。
日本兵達が出演する場面もそのリアルさを高めている。
社交場でのダンスパーティで、
腕や脚を失った兵士2人が立ち去った人々から取り残ってしまう場面があり、その姿が脳裏から離れない。
衝動的に繰り返す悪戯を止める事が出来ないワレルカは悪童と呼ばれながらも、真のある強い心を持つ正義のヒーローにも見えてしまう。
本物のストリートチルドレンであった彼の存在感は、惹きつけて止まない魅力を放っている。
劇中ラストに向かう破滅のへの道を予感させる中、
線路でワレルカとガリーヤが通り過ぎる列車から顔を覗かせるシーンでは、はっとするような唯一の幸福感があった。
そのシーンの直後からラストシーンへと。
これは一生忘れられない。
ヘルツォークやブニュエルのような怪作とは一味違うが、
同じくらいの破壊力がある作品だった。
観終わってからしばらく気持ちが取り残され、精気を抜かれた様な感覚に。
この後、ヴェンダース・オールナイトが待っていると言うのに。
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