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PeaceのReiのレビュー・感想・評価

Peace(2010年製作の映画)
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ナレーション、テロップ、音楽を使用しない、ドキュメンタリー映画監督相田和弘さんの「観察映画」と呼ばれる作品群のなかの第三作目であり、75分という尺の短編作品。
物語の中心人物である柏木夫婦はなんと相田監督の妻の両親であるという異色作。この作品が出来た経緯について、相田監督は「お父さん(柏木寿男)が猫に対してえさをやっている場面を見たときにその光景が魅力的すぎて思わずカメラを回した。すると数多くの猫の中で一匹だけ群れない猫を見つけた。そこから映画になるのではという考えが浮かんだ。」ということを語っている。つまりこの作品は意図して作られた作品ではなく「偶然」出来上がった作品なのである。この「偶然」というキーワードはこの映画を素晴らしい作品にした大きな要因、そして相田監督の作品がもつ奇跡的な力ということが出来る。
その奇跡的な偶然を象徴する場面は大きく二つある。まず一つは末期がん患者である90歳の男性、橋下さんがいままで一度も明かしたことのなかった自身の戦争体験を打ち明ける場面である。末期がんであることを自覚している橋下さんは「早く迎えがこないだろうか」といったような自身の死を望むような発言を作中何度も繰り返す。そんな人が話し始めた生きたくても生きることの出来なかった、かつての自身の友人たちの話。それを語る橋下さんのなんともいえない表情。とても偶然起きたとは思えない映画的なシーンである。
そして二つ目、橋下さんの家から帰る車の中で、自身の職業である福祉の仕事の経済的な厳しさを語る場面で、当時の鳩山首相の福祉事業の拡充を目指しているといった内容の演説が流れるという強烈なアイロニーに満ちたシーンである。この場面は逆に作為的に生み出そうとしても生まれないようなシーンだと感じた。
相田監督の作品は「ありのまま」を映すことに徹底しており、そのためにかなり多くのこだわりを持って撮影している。詳しくは相田監督の「観察映画の十戒」というものがネット上にあるので、それを確認してほしい。
「ありのまま」を映すことによって生まれる、偶然のほんの小さな奇跡は意図して作られた大きな奇跡よりも輝くことがあるということを強く感じさせられた。
作品のタイトル「Peace」は平和という意味もあれば安らぎという意味もある。この作品に流れる独特の温かみに私は「Peace」を感じた。
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