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人生の特等席のキューブのレビュー・感想・評価

人生の特等席(2012年製作の映画)
2.5
 イーストウッドが俳優として久々に復帰した。「憎まれ口を叩く、いけ好かないじじい」の役はもはや鉄板であり、安定した演技を見せてくれる。口下手だから娘に思いを伝えられなくて、時折見せる悲しそうな表情はとても繊細だ。
 そのイーストウッドの娘役がエイミー・アダムスと来れば文句なし。男勝りのキャリアウーマンだが、内面では父親の愛を欲している。楽しそうなときもどこか物憂げなところが役に深みを与えている。
 その他、ジャスティン・ティンバーレイクはスカウトに転向した元投手を演じている。(少々さわやかすぎるが)非常に好感が持てて、彼とアダムスの会話のシーンは見事にかみ合っている。ジョン・グッドマンに至っては言わずもがな。脇役なのに、ストーリーの雰囲気を最終的に形作るのは彼と言っても過言ではない。
 しかしこんなに良い役者がそろっているにも関わらず、この映画は限りなく微妙だ。おそらく脚本が根本的に良くないのだろう。何しろ、盛り込まれているエピソードが「父親がスカウトをクビになりそう」「父と娘のすれ違い」「娘の昇進」「娘の恋愛」・・・etc。どれに主軸を置いているのか全く分からない。しかもそれぞれの話が唐突に登場するものだから、ツッコミどころ満載だ。
 肝心の「秘められた過去」が明らかになるときはある意味テンションが上がる。なんとハリー・キャラハンが登場するのだ。いや、ガスの昔の姿を再現しているのだがそれが「ダーティハリー」のイーストウッドそっくり。正直、このシーン以外頭に残っていないのだが。
 敵役の作り込みの甘さも致命的だろう。この映画は「マネーボール」とは正反対の主張をしている。つまり選手はパソコンなんかではなく、スカウトの目で見つけ出すものだと。だが「マネーボール」では頭の固い老スカウトにも一理ある、と描かれていたのに対し、この映画での”パソコン野郎”は典型的な嫌な奴でしかない。ただただ、むかつくのだ。まあ最後の安っぽいエンディング(ここですべての問題が一気に解決する)のおかげで、「ざまあみろ!!」という気分にはなれるが。
 良いシーンもたくさんあるのに、脚本の酷さが足を引っ張っている。監督はイーストウッドの弟子だから、彼の魅力をどう生かせばいいのかはよく分かっていただろう。だがストーリーがこれじゃあ、キャラクターが良くても映画はダメ。
 とはいえ、「人生の特等席」を嫌いになるのは難しい。クオリティは「三等席」だが、それはそれで楽しいのだ。
(12年12月20日 映画館 2.5点)
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