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東京家族のakrutmのレビュー・感想・評価

東京家族(2012年製作の映画)
3.4
小津安二郎の『東京物語』のストーリーをほぼ踏襲しつつ、時代設定を現代に翻案した、山田洋次監督のドラマ映画。『東京物語』のストーリーだけではなく、ショットの構図などの演出方法も一部そのまま利用するなど、小津監督にオマージュを捧げた作品である。

それ故に、『東京物語』を知っているか知らないかによって、評価が大きく分かれる映画である。『東京物語』を知らずに(全く意識せずに)本作品を見た人にとっては、家族ドラマとして良くできた映画であると思うだろうし、誰もが一度は経験するような親子の微妙な関係などが描かれていて共感できるだろう。しかし、それは小津安二郎と野田高梧による『東京物語』の脚本が素晴らしいからであり、山田洋次監督が凄いからでは決してない。

一方、『東京物語』を知っている人は、おそらく物足りなさを感じてしまうだろう。その理由は、次男とその妻の扱いが大きく異なっている点にある。次男は死亡してすでにこの世にいないにも関わらず、妻の紀子が平山家の両親を一番気遣っているという構図が、最も重要な『東京物語』の要素なのである。これが起点となって、親の感じる寂しさ、子供の親に対する冷めた気持ち、そして紀子自身の事情などが効果的に浮かび上がってくるところに、『東京物語』の素晴らしさがある。対照的に、本作ではそのような「紀子」はいなくて、作中の「紀子」の役割を生きている次男とその恋人・紀子の両者で分担している。このことで『東京物語』のテーマの描き方が本作ではとても弱くなっていて、結果としてほのぼのとした平凡な家族物語に堕してしまっている。個人的には、小津監督をオマージュするために製作した映画として、そこがとても残念なのである。これだと、『家族はつらいよ』の前宣伝だと思われても仕方がない。

映画のポスターをはじめ、次男の部屋に横尾忠則展のポスターが貼られていたり、Y字路が使われていたりと、横尾忠則のアイテムが満載なのも、どこか皮肉である。
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