2013年松竹/製作委員会作。1953年の小津安二郎監督の「東京物語」の60周年に、明示的なオマージュ作品として山田洋次が監督した作品。東京に来た老夫婦が子どもたちを訪ね歩き、子どもたちの生活とのすれ違いを感じる大きな流れは東京物語と同一。橋爪功と吉行和子の夫婦は好演だ。他の助演陣も各々のキャラクターを生かしているが、原節子にあたるであろう蒼井優に特にスポットが当たっている。
子どもたちが仕事のためにこぞって東京に去るという戦後初期に生じた新しい現象を題材とした「東京物語」に対して、本作の風景は今の日本では当たり前すぎ、また、田舎の風景は牧歌的にすら見える。311大震災に触れつつ、「日本はどこかで間違った」「もうやり直しはできない」という主人公の慨嘆が監督のメッセージなのだろうか。傑作東京物語と比べるとメッセージ性も映画技法上の斬新さも分が悪いが、佳作だろう。
追記 吉行和子「そしていま、一人になる」では、吉行が山田洋次と会ったのは2012年にこの映画が最初とあって意外。その後、「家族はつらいよ」1,2でほぼ同じ出演者で演じているからよほど雰囲気がよかったのだろう。