るるびっち

パフューム ある人殺しの物語のるるびっちのレビュー・感想・評価

4.7
匂いフェチの変態犯罪映画と見るか、誰も理解不能な天才の孤独と見るか・・・
映像で表現困難な匂いをテーマにした映画。
『スニッファー』という嗅覚探偵の推理ドラマが日本でもリメイクされたが、その10年前にこんな不思議な映画があったのだ。
香りや臭いという映らないものを、映像に喩えて伝えている。

いかにも悪臭漂うパリの描写。魅惑の街でなく、汚物の街の描写が凄まじい。
そもそも香水は体臭消し。ご婦人の大きなフープ・スカートは立ち小便用だし、ハイヒールも糞尿を踏まないためだ。
イギリスも同じで、英国紳士の身だしなみステッキにシルクハットは、足元の糞便と窓からゴミと一緒に落ちて来る糞尿避けなのだ。
それ程、英仏の当時の街は汚物に満ちていた。
気取っているが、うんこ避けを被ってうんこ避けの棒を持ち、立ち小便用のスカートとうんこ避けのハイヒールを履いているのが紳士淑女の身だしなみだ。正真正銘のクソ野郎どもだ。
ファッションの起源は、うんこちゃんなのである。💩💩💩
だから、ホームレスを嫌うエリートなんて笑止千万だ。

地動説を支持したガリレオは、当時は異端者だ。
ダ・ヴィンチも骨格・筋肉等を研究するため人体解剖している。絵画のためだけではなく、人体の全てが知りたかった節がある。
現代人は流石ダ・ヴィンチと感心するが、当時の一般人は悪魔と恐れたかも知れない。
もし絵を描くために人を殺して解剖していたら、現代人でも狂人と判断するだろう。
我々の常識なんて、時代と共に簡単にひっくり返る。

そもそもこの主人公は、誰からも愛されず母親に捨てられた男だ。
ゴミのように扱われたのだから、他人をゴミのように扱うのは当然だ。
彼が女性に対してコミュニケーションを取ることを学ばなかったのは、誰からもコミュニケーションを取られなかったからだろう。
しかし、彼にはどんな匂いも嗅ぎ分ける天才的な嗅覚があった。
彼は他人とコミュニケーションを取ることは止めて、たった独りで世界の謎を解明しようとする。
伝説の香水の追及。
これこそ彼にとっての愛情表現であり、世界とのコミュニケーションなのだ。そして性表現でもある。
でなければ、美女ばかり狙わないだろう。
美女だけが良い香りを発するわけではない。
けれど彼が狙うのは美女ばかり。完全に本人の嗜好が入っている。
かぐわしいブスには手をつけず、かぐわしい美女ばかり摘む。
美女ゆえの神秘の香りというのも、映像による匂いの変換なのか。

実は、本作は変態映画でも天才の孤独でもない。楽園回帰の話だ。
彼の目標は伝説の香水を作ることだが、それは楽園を再現する為だ。
アダムとイブ以来、楽園から追放された人類。
だが彼はその禁断の秘密に触れる。最初に出会った女性が果実を持っている。それはこの物語が、禁断の香りを入手して楽園回帰することを表している。
だからこそのラストである。
まったく不思議な映画だ。
オリジナリティが高く、他に例を見ない。

人類が追放され、永遠に失ってしまったもの。
それに手を伸ばそうとする話。
罪に満ちた現世に産み落とされた我々は、究極の幸福を失ってしまったのである。悪臭に満ちた市場で産み落とされた主人公は、楽園追放された人類の姿を表している。
偏見で彼を処刑してしまえば、永遠に我々は楽園に戻ることはできないだろう。
それを知れば、変態犯罪者が天使に変わる。まさにコペルニクス的転回。
映像による異次元の体験といえよう。
変態映画と決めつけるのは、天動説を支持しているに等しい。

更なる転回。
最初に出会った物売りの娘を永久に失ってしった主人公。
結局の所、彼にとっての楽園回帰は、最初の娘を復活させることだったのかも知れない。
すると、途端に悲恋の話に姿を変える。
価値観を揺さぶる映画。
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