レインウォッチャー

クラウド アトラスのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

クラウド アトラス(2012年製作の映画)
3.5
『火の鳥』を6冊並行で読むチャレンジ、的な。

時代も場所も異なる6つの物語が、数珠繋ぎのような縁を感じさせがらもパラレルに進んでいく。シーンごとのイベントや感情が呼応し合って、四次元的なカットバックを繰り返していく豪腕。
高い技術点が目立つものの、流石に個々のエピソードは薄くなりがち。ここは全編に串を通す哲学に着目したいところだ。

トム・ハンクスやハル・ベリー、ペ・ドゥナ他のキャストが各時代で別々の人物を演じるのだけれど、それはたとえばサーガ的な血縁関係にある人物というわけではなく、国籍も立場も、時には性別すら異なる人物であるという点が興味深い。

そこにあるのは東洋的な「輪廻転生」の発想で、魂は分け隔てなく引き継がれるものであり、業(カルマ)の積み重ねが次の現世を作っていくという哲学が垣間見える。このあたり、ある意味で現世内転生を果たしたといえるウォシャウスキー姉妹(元兄弟)に言われるとなんとなく説得力がすごい。

また、因果応報は必ずしもループせず、抜け出る可能性を描いていることもポイントだろう。ある魂が犯した罪や果たせなかった思いは次のターンで挽回できるかもしれないし、残した遺産が思わぬところで他の魂に引き継がれ(あるいは「シェア」され)て、別の形で浄化されることだってある。

業は引き継がれるのだが、いつかはそれが全体にとって「良きこと」に成就するときが来るかもしれない…
こんな考えはスピリチュアルでオカルトに聞こえるかもしれないけれど、人類という種全体の超長期的な歩みに拡大して見ればどこか進化心理学的な「適応」の方向性と重ねて考えることもできて、あながち馬鹿にできないのでは、と思ったりもする。

これを無常と捉えることもできるだろうけれど、今作ではあくまで希望として打ち出されている。
ここでわたしは、アニメ『天元突破グレンラガン』の「 一回転すればほんの少しだけ前に進む、 それがドリルなんだよ」という台詞を思い出す。今作の劇中の言葉で言い換えれば、「雫はやがて海になる」のだ。

ところで、キャスト陣の演じ分けは特殊メイクなどを存分に駆使し散らかした最早悪ふざけレベルの七変化になっている。エンドロールの種明かしでは「こいつも!?」「そいつが!?」となること請け合い。
もし何の予習もなく全員当てることができた人がいれば、今すぐCIAとかに履歴書を送ったほうがいい。マジで。