ユカリーヌ

舟を編むのユカリーヌのレビュー・感想・評価

舟を編む(2013年製作の映画)
3.9
【過去に観た映画】2013.5.10

地味ながら、丁寧に作られた
「言葉」への愛が感じられる映画だった。

十数年という辞書作りを通して、そこに関わる人々の
移り変わりを描く。
辞書作りという「活字」の世界を映像で表現することのおもしろさ、多様性が感じられた。

季節感を感じさせるショットも美しく、舞台となる早雲荘のセットや美術などのこだわりも
随所に観られ、物語世界に入りこめた。

時を経てそれぞれが成長し、変わって行く姿、 〆切りに向かう時の高揚感などもあざとくなくよかった。

本に囲まれて、人とコミュニケーションをとるのが
苦手な馬締(マジメ)を松田龍平が寡黙だが、存在感のある演技で印象深い。
そして、その同僚となる西岡を演じるオダギリジョーが
とてもよかった。
こういう役は珍しいが、すごく似合っていて、彼の演技に泣かされもした。
特に異動になるシーンは泣けた。

馬締とかぐや(宮崎あおい)が出逢うシーンはとってもステキで、告白のシーンでは涙が出た。

私自身、若い頃に雑誌の編集者になりたいと思っていて、
エディタースクールに通ったり、通信で校正を受講
したりしていたので、今回の「辞書編集部」という題材は
とても興味深く、共感し、必要以上に感情移入してしまった。


●パンフ。
分厚いなと思ったら、ものすごく凝った作り。
表紙の格子の白い部分は辞書の言葉が載っている。

映画の中で、辞書の紙質にこだわるシーンがあり、
馬締が「ぬめり感が欲しい」と言うが、その紙と同種の
ものが真ん中の数ページで使われていて、 手触り感を楽しめる。

巻末にはシナリオ付きなのが嬉しい。

● 「キネマ旬報」の「舟を編む」特集。

脚本家の渡辺謙作氏は、パンフでは、「自分が演出しないので、ト書はあまり書かないようにした」 とあるが、「キネ旬」のインタビューでは。
「ト書きを過剰に書いたりもしました」とある。

シナリオは設計図だ!とよく言われるけど、
渡辺氏は「バーチャルイメージみたいなものなの。
シナリオ通りに撮っても面白くなるはずないので、
キャストやスタッフがイメージを想起させるもの」と
語っている。

「三浦しをんさんといえば、やっぱり『BL』の要素が
あるじゃないですか! なので、馬締と西岡とのコンビは
そこを意識して書きました」とも語っていて、笑った。

原作者 三浦しをん氏の言葉。
「辞書づくりとは、多くのひとの知識と知恵と技術を
結集し、人間の心が生み出した『言葉』を言葉で説明し、
解き明かそうとする営みだ。辞書づくりは映画づくりに
似ている」とある。


私は、毒も吐くし、暴言も飛ばすが、「言葉」が好きだから、
大切にし、私の「言葉」をつむいでいきたいと思う。
ユカリーヌ

ユカリーヌ