ちろる

舟を編むのちろるのレビュー・感想・評価

舟を編む(2013年製作の映画)
3.7
作品としては静かで淡々としているけれど、人のぬくもりや仕事への思いなど、じんわりと温かい気持ちになる事ができた映画です。

コミュニケーション能力に乏しいけどひたすら真面目な松田龍平さん演じる主人公はいっけん気持ち悪い?系だけども滑稽でなんだか愛らしい。

あんなかわいい宮﨑あおい演じるかぐやさんが彼を受け入れるところなんかははじめ、モテない男の妄想のようで現実味無いような気がしましたが、ひたすら堅苦しくて不器用な彼を見てたら、なんだかころっときてしまう彼女気持ちも分かるような気がしました。

メインで描かれるのは主人公のお仕事について。
辞書編集部というすぐに成果の出ない部署の会社にとっての微妙な立ち位置だとか、仕事の細かい作業工程が本当にしっかりと描かれていて、本当にしっかりと取材されたのだなぁと感心せざるおえませんでした。

こんな風に天職に出会える人ってこの世の中に3分のⅠもいないかもしれないけれど、ひたすら自分らしさを突き抜けた時にはこの主人公のようにプライベートの人生までも変えてくれる力があるのかもしれない。
私にとってはこのお仕事、作業を見ているだけで吐きそうになってく途方も無い作業の繰り返しですが、彼が編集部に配属されてからのおどろくような変身ぶりにはワクワクし通しでした。

辞書ってなんだか重いし、PCあるし、持ってはいても本棚の片隅に置きっぱなしになっている存在でしたが、この映画の辞書編集部のように、15年、20年かけて時代を超え、たくさんの人が関わりながら作り上げられる血と汗なのだと知り、なんとなく愛おしい存在になりそうです。

出版者の部署が縮小される時代でこういう辞書編集部っておそらくなくなりつつあるとはおもうけれど、こんな風に日本語をとことん愛して、見つめて、新しい言葉も受け入れて、日本語の発展に力を注いできた人たちがいた事を忘れないでという原作者の三浦さんの想いがたくさん詰まった作品でした。

素晴らしき存在感の加藤剛さんのはじめ、小林薫さんなどたくさんのベテラン演技派の役者さんを取り揃えてもまだ尚異彩を放つ演技を見せてくれた松田龍平さんはほんと素晴らしかった。

真面目でいる事やまっすぐでいる事ってけっこう報われない事が多いけれど、誰か一人でも必ず見てくれる人がいれば少しだけ未来が変わってくるかもしれない。
そう気づかせてれた優しくて温かい作品でした。
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