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次の朝は他人(2011年製作の映画)
4.0
 肌寒い年末の韓国ソウル、タプコル公園楽園商店街、人通りの少ない横断歩道を駆け足で行く。先輩に会うためにソウルを訪れた映画監督ソンジュン(ユ・ジュンサン)は足早に歩きながら何度も電話をかけるが、ヨンホ先輩(キム・サンジュン)とは一向に繋がらない。ソンジュンは4本のフィルモグラフィを持つ映画監督でありながら、今は監督の仕事を辞め、ソウルから少し離れた大邱で映画講師として暮らす。今回の旅は3泊4日だが、先輩に会う以外はまったくやることがない。男は冬のソウルの街を散策しようと静かに歩き出す。坂道を登ろうとした矢先、後ろから駆け出しの女優パク・スミンに声をかけられる。『オープニング』という舞台劇に出ているという彼女と2,3会話した男は、仁寺洞というレストランで一人寂しく飯を食べていたところを、映画学科の学生という3人に声を掛けられる。酒を酌み交わした男4人はソンジュンの奢りで果物屋にも入るのだが、ソンジュンは突然怒り出し、彼らに付いて来るなと罵声を浴びせ、2年前に別れたキョンジン(キム・ボギョン)のアパートを訪ねる。別れた男の突然の訪問に困惑気味の女と謎の一夜を過ごした後、ソンジュンは満面の笑みで「キミのことを応援している」という言葉を残す。

 翌日、ようやくヨンホ先輩を捕まえたソンジュンは、彼の連れてきたポラム(ソン・ソンミ)という映画学科の教授と共に、誘われるまま食事をし“小説”というバーに流れる。この店はいつも決まってカギが開いているが、店には人の気配がない。数時間酒を酌み交わしていると、遅れてバーのママがやって来る。3人で酒を酌み交わし、酩酊し歓談していたソンジュンは、遅れてやってきたママ、ソン・イェジョン(キム・ボギョン)の姿に目が釘付けになる。2年前に別れた彼女と1人2役のキム・ボギョンの薄幸の女っぷりが素晴らしい。いつも営業時間に遅れてやって来るバーのママなどプロフェッショナルとしてあるまじき行動だとは思うが 笑、初めましてとお辞儀をしたソンジュンの様子に、イェジョンは満更でもない笑みを浮かべる。ホン・サンスの映画はいつだって教授や監督などのいわゆる教養人が、若い女との三角関係に巻き込まれる。主人公の単なる知的好奇心でしかない散策の過程で、彼はすれ違う筈の幾人もの人々と出会い、笑顔で酒を酌み交わす。その単純な反復の中に、いつだって男と女の濃密な人生の可笑しみが溢れる。夢を諦め、在野に降りたはずの男は学生だった年下の女の恋心に火をつけるが、男は既に別れた女にソックリなバーのママに心奪われている。単純なティルト・アップやズーム・アップの巧妙な反復、一見アドリブにも見える会話劇の緻密な計算などのあざとさは随分高等だが、ソウル市内の凍てつくような寒さをモノクロ映像で据えたキム・ヒョングの手腕が素晴らしい。雪の中、5人がタクシーを待ち構える場面の凍てつくような素晴らしさはホン・サンス映画史上屈指の魅力を誇る。
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