もるがな

ルビー・スパークスのもるがなのレビュー・感想・評価

ルビー・スパークス(2012年製作の映画)
3.8
『リトル・ミス・サンシャイン』の監督と『(500)日のサマー』のスタッフが送るファンタジーラブストーリー。2作目の壁にぶつかり、過去の栄光にすがる草食系非モテ作家カルヴィンが、夢で出会った理想の彼女をタイプライターで打ち出した時、その彼女、ルビー・スパークスが現実世界へと現れる。

生身の女ではない、理想の彼女を追い求めた経験は誰にだってあるだろう。マッチョイズムバリバリの主人公の兄ですら「男として頼む。この奇跡を無駄にするな」と語る通り、それはある種の男の夢である。機嫌が良く、常に笑い、毎日愛してくれる。そんな彼女が現れたら、人生が幸せになる。

そんな風に思っていた時期が、俺にもありました……。

ここに書かれているのは人間じゃない。ルビー・スパークスの書き出しを見た兄が喝破した通り、理想の彼女とは言ってもそれは主人公の願望に過ぎず、理想を通して浮き彫りになるのは自身のダメさ加減である。ルビーが人間らしくなっていくほどに主人公との距離は開いていき、それを恐れるがあまり、文章を付け足してルビーをメンヘラ化させたりアホの子にさせたりと魔改造しまくるわけだが、思い通りになるはずの彼女に振り回されるのは見てて色々と痛々しかった。

こじらせた主人公の振る舞いはお世辞にも紳士的であるとは言えず、人によっては感情移入できずに怒りを覚えるかもしれない。だがルビーは結局は主人公の自己投影に過ぎないのである。人格を持っていても、それは自分の不甲斐なさの写し鏡であり、だからこそ認めることができないのだ。

また、作家という主人公の職業に対する命題も面白く、曰く満たされたり、伝えたい物事がなくなった時に人は作家でいられるのか?というのは色々と興味深かった。作家は大抵自分の理想の物語を紡ぐものである。

ラストは甘く、ベタではあるものの最後の言葉にはグッときてしまった。赤毛でキュートで気まぐれでコロコロと表情の変わる面倒くさい女は、大抵の男の憧れなのだろうね。
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