MasaichiYaguchi

映画 鈴木先生のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

映画 鈴木先生(2012年製作の映画)
3.4
私には学校の先生は向いてないと思い、教職課程を取らなかったが、大学の友人の何人かは中学校で英語を教えている。
夏休みとか休暇が多いように思われる学校の先生だが、本作を観ると改めて大変さが伝わって来る。
この頃の生徒は表面上は「良い子」でも、内心では何を考えているのか分からないそうだ。
だから先生のなかには「事なかれ主義」になったり、ストレスから体罰に走ったり、生徒に変なことをする人が出たりする。
この作品の鈴木先生は違う。
今までの学園青春物で描かれてきた青春を熱く語る熱血教師や、ヤンキー上がりの落ちこぼれ目線で生徒と一緒になって頑張る先生像とも違う。
「鈴木式教育メソッド」を打ち立て、「実験」という名の下で彼は信念を持って生徒に教える。
それは一見理屈っぽくてクールのように思えるが、静かな情熱を内に秘めている。
ただ鈴木先生も聖人君子ではない。
時々「小川病」を発症し、頭を抱える姿に失笑しながらも共感を禁じえない。
この劇場版では「生徒会選挙」を題材に「正論」と「現実」との葛藤を描く。
「正論」は強者の視点に立つ論理でマイノリティの存在を無視する。
そして道理に適う意見は必ずしも「現実」に則したものであるとは限らない。
長い不況と閉塞感漂うこの世の中は、マイノリティに「落ちこぼれ」のレッテルを貼って社会から締め出していく。
本作は中学校を舞台にしているとはいえ、私には社会の縮図のように思えた。
鈴木先生は、このような閉塞感溢れる世界を教育で変えていこうと考えている。
先生の目指しているものは「夢物語」かもしれないが、終盤で起こった事件で人質となった女子生徒・小川蘇美の言葉が胸を打つ。
富田靖子さん演じる「振り切れた」足子先生が最後に見せた活躍を含め、何か我々にエールを送るようなラストに温もりを感じました。