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塀の中のジュリアス・シーザーのmasayaanのレビュー・感想・評価

4.0
「文化・芸術がいったい何の役に立つのか?」という、あまり答える必要のない問いがあるけれども、しかし、出会うタイミングによっては、そのような問いがジリジリと人を苦しめるかもしれない。

本作が実話ベースで描くのは、「刑務所の塀の中で、それも長期刑囚として、シェイクスピアに出会ってしまった人たち」である。彼らは「自分の人生を決定的に分けた分岐点」として、収監された今もトラウマのように襲い掛かってくる「塀の外」での後悔や苦悩が、16世紀に書かれた戯曲の中に余すことなく描写されていることを発見する。それも、実際に劇を演じることによって。

400年前の人間が自分と同じことで苦悩し、葛藤していたことを知ること。そんな発見に満ちた舞台の上で、しかし、彼らは囚われの身のままだ。その処遇上の変化はなんら生じない。ただ魂だけが救済されるのである。それが逆説的に、新たな不自由となって彼らの囚われを強調する。その描写はとてもストレートで、「(これを勝たせる映画祭は)保守的」と言われた理由も分かる気がする。

とは言え、変に教養主義的ではないし、尺的にもさらっと見れるので悪くないです。いささか風変わりなバックステージものとして楽しみたい。
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