MasaichiYaguchi

塀の中のジュリアス・シーザーのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.5
巨匠パオロ&ヴィットリオ・タヴィアー二兄弟監督の2012年第62回ベルリン国際映画祭金熊賞受賞作品。
この作品を観ていると、「虚構と現実」の境が曖昧になって不思議な感覚に捉われる。
本作はローマ郊外にあるレビッビア刑務所で服役囚によって行われている演劇実習のドキュメンタリー作品。
この演劇実習は毎年様々な戯曲を刑務所内にある劇場で演じられ、一般の人々に披露されている。
「実習」とはいえ、やっていることは本格的だ。
本作で描かれる演目はシェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」。
先ずオーディションで出演者達が選ばれ、夫々囚人のキャラクターに合わせてキャスティング、演技指導の上、本公演に向け何度もリハーサルを行う。
彼らが出る劇場も、日本の刑務所で慰問公演が行われるような「講堂」レベルではなくて立派なもの。
映画は刑務所の様々な場所で行われる練習風景を描いていくのだが、演じる囚人が本物の役者のように、そして練習している場所が恰も「ジュリアス・シーザー暗殺」が繰り広げられているローマの様に見えてくるから不思議だ。
囚人達の台詞の遣り取りもどこまでが台詞で、どこからが彼らの「生の言葉」なのか分からなくなっていく。
真の自由を求めてシーザーを暗殺するブルータス達の姿と、鉄格子で自由を奪われている彼らの「現実」がオーバーラップしていく。
演劇の高揚感は祭りの興奮に似ている。
だから祭りの後の侘しさのように、芝居の幕が下りた時、我々も「現実」に引き戻される。
刑務所で行われたシェイクスピア劇のドキュメンタリーでありながら虚構性に満ち、創作のように錯覚させる本作品。
齢80歳を越えながら、演劇の本質を斬新な視点で描く兄弟監督の情熱にただ感服するのみである。