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the Future ザ・フューチャーのjnkのレビュー・感想・評価

the Future ザ・フューチャー(2011年製作の映画)
4.5
ミランダジュライの作品は「フィクションは全部嘘である」ということを強調した上で、人の中に確実に存在する情動を呼び起こしてくれる。
ぬるい共感はさせず、理解した途端に辛い地獄のような体験も共有することになるけど、弱い心を守ってくれるのはそういう作品だと思う。
フィクションは自分の人生も物語のようにドラマチックであるということを感じさせてくれるのが一つの魅力だけど、ミランダジュライは小説でもそのようなテーマをいつもやっていて、ほぼ全作品コミュニケーションの難しさとそれでも人と関わる欲求を捨てられない辛さ、そしてそれが夢でも妄想でも物語になるということを証明するよう作品を作り続けてる。
それを自分で確認して信じないと生きていけないというぐらいの気合いと寂しさが感じられるもので、この映画も「外の世界を知ってる?」という引きこもりには辛い一言から始まる。
木を売ったりYouTubeにダンス動画をあげたり絵を買ったり知らん電話番号にかけてみたりする時、どこか寂しげでこれから起こることに淡い期待をするような空気が映っていて、単純に人の自分探しを笑ったりできない。

「あなたを選んでくれるもの」はこの映画の脚本に行き詰まったミランダジュライがフリーペーパーで中古品を出品してる人にインタビューして回るという本なのだけど、まさにミランダジュライがネット越しでない生身の人間と触れ合い外の世界を知っていく様が書かれていた。
そこで彼女が明らかに価値観を変容させられたのが時間というもので、焦りや不安と言ったネガティブな仮想敵としての時間/未来とうまく付き合っていくというのがこの映画のテーマにもなってる。

1か月後にいつ死ぬかわからない猫を飼うことにしたから仕事辞めて自由にやりたいことをやる期間を作るなんていうのはいかにもミランダジュライ的な設定だけど、そんな自由に見える人らでも激しく時間に囚われ、同じ時間を生きてるはずの他の人間と比較して焦ったり悩んだりして自意識全開でもがいてるという姿が剥き出しになっていてとにかく素晴らしく、飛び抜けて素晴らしすぎたTシャツダンスシーンの感動に繋がっていく。
後半はファンタジー色が強くなってくるけど、あのダンスがどこで踊られているか、結末はどうなったかと考えるとこれ以上ないリアルを突きつけられるし、自意識が傷付きボロボロの中でいろんなものを受け入れて生まれ変わろうとする姿は痛々しくも熱い場面で、安い共感に走らず魂をゆさぶる独特の作風が映画でも炸裂していて震えるような感動があった。

彼女の短編小説に「モン・プレジール」という作品があって、倦怠期夫婦が映画のエキストラに出ることで状況を打開しようという話なのだけど、妄想的な作品が多い中でこの短編の登場人物達ははっきり現実のフィクションに影響を受けていく。
それは演じることで信じることができるという映画が観客に与える影響の話でもある。
the futureでは別にその力が確固たるものとかじゃなくて、オシャレでガーリーな雰囲気で守りつつ示されるのがまた辛い。
確かに想像力は強いけど、それすら疑って生きるしかない。そういう弱さを表現する人がいるってだけで楽になる。
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