荒野の狼

ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日の荒野の狼のレビュー・感想・評価

4.0
2012年のアメリカ映画で原題は、”Life of Pi”。「話を聞けば神を信じる」という前振りで、物語がはじまり、最初は主人公のパイが、少年時代にヒンズー教・キリスト教・イスラム教を信仰していく様子が描かれる。
このため以後のドラマは、最後には「神を信じる」ことのできる宗教的・思想的な内容で感動のラストを迎えるかと想像したが、一転して冒険・ファンタジー映画として物語は進み、最後は、果たして漂流の真相はなんだったのかというミステリーのような形で完結している。
三大宗教に触れておきながら、多少なりとも物語に生かされていたシーンが少ない。宗教的なシーンで印象的なのは、漂流するパイが巨大な魚を殺さざるを得なかったシーンで、これはヒンズーの神のビシュヌが巨大な魚に化身して人類を救った故事を思わせ、実際、このシーンではパイはヴィシュヌへの感謝の念を表し、泣き崩れている。
トラはヒンズー教・神話では割に登場する動物であるので、これに宗教的・神話的要素が取り込まれれば、「話を聞けば神を信じる」映画になり得たのではないかと思われる。
主人公が、3大宗教のすべてを信じるという設定は、あまりないだけに、このせっかくの設定が、生かされていないのは惜しい。映画は、主人公が、極めて絶望的な状況にあるにも関わらず、常に明るく、コメディー映画といってもよいほどの出来。
見事なのは、動物たちの演技で、CGが大きな役割を演じているということなのだが、どこまでがCGで、どこからが実写なのかわからないほどの出来。ただ、ディズニー映画などでありがちな動物が好きになるとかいったたぐいの描き方ではなく(たとえば人と動物の間に友情が生まれるとかいうことは、この映画ではない)、これが荒唐無稽な設定にリアリティを持たせているとも言える。
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