TAK44マグナム

シュガー・ラッシュのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

シュガー・ラッシュ(2012年製作の映画)
4.7
アイデンティティ。


「シュガーラッシュ:オンライン」を観て、大変感銘を受けたわけですが、一作目は未見でした。
実を言えば、ずっと以前にブルーレイを購入してまして、完全に積み組の一員となってしまっていたのです。
しかし、これは観ないと!と思い、重い腰をあげて、ようやくの鑑賞と相成りました。

結果、とんでもなく面白かったです!
そして、かなり深いテーマが潜んでおりました。


ありとあらゆるものを何でも擬人化するのが巧いディズニーが本作で挑戦した世界は、ビデオゲームのキャラが「実際に生きている」という不可思議な電子の世界。
この世界では、ゲームのキャラクターたちは仕事としてゲーム内のキャラクターを演じ、ゲームセンターが閉店となる夜には各々の生活を楽しむのです。
ゲームの稼働開始30周年を祝うパーティまで開きますよ。

主人公となるラルフは物を破壊することしか出来ない悪役キャラの為に他の皆から嫌われています。
それが我慢ならないラルフは、「ヒーローの証」である金メダルを得るために自分のゲームを飛び出し、他のゲームに侵入するのでした。
しかし、それが原因となって、人気レースゲームのシュガーラッシュに恐ろしい危機が迫ります。


たしかにラルフは壊し屋なんですよね。
ついついバカもやってしまう。
でも心根は優しく、決して非常識一辺倒でもない。
シュガーラッシュで出会ったヴァネロぺの境遇に共感して、彼女のために奮闘するラルフは、ただの壊し屋じゃありません。
それが如実に表現されたシーンが、ラルフがヴァネロぺのレーサー訓練用に即席サーキットを作るところで、大地を削り、「破壊」することでコースが出来上がります。
壊す行為が何かを作り出すわけで、「破壊なくして創造なし」を分かりやすく見せてくれます。


しかし、世間的には何をやってもどこまでも悪役・・・
ラルフは他のみんなの輪に入っていきたいんですよね。
平たく言えば友だちが欲しい。
それなのに悪役だから、いつもひとりぼっち。
それは、ラルフも他のみんなも分かっていないからなのです。
この世界には光があれば影もある。ヒーローがいるなら悪もいるし、その逆も然り。
ラルフがいるからこそ、彼が壊すからこそゲームが成り立ち、他のみんなも生きていけるのです。
重要なのは、与えられた役割をちゃんとこなすことであって、それが結局は各々のアイデンティティの確立に繋がるんですよね。

そして、役割としては悪役だとしても絶対にヒーローになれないわけではなく、頑張れば誰かのヒーローにはなれるんだという事も本作は教えてくれます。

一方のヴァネロぺは何故か不遇な境遇で、やはり他のみんなから目の敵にされています。
レースに参加したいのに、どうしても出られません。
シュガーラッシュを支配するキャンディ大王からして「絶対にレースはさせない」と言い放つぐらいです。
どうして理不尽な扱いを受けるのか、その謎が中盤以降を引っ張ります。
やがて驚きの秘密が明かされるのですが、個人的にとってもビックリで、「うーん、なるほど、そうだったんだ」と、唸らされました。
あの「悪役」だって元々はヒーロー(?)だったわけで、つまりはこれも正義と悪は表裏一体、大事なのはどちらに心根まで染まるのか?であるという事を表しているのでしょう。

ヴァネロぺは、どうやらプログラムの不具合のせいもあって、とても不安定な身体の持ち主であり、それを自ら欠点と捉えています。
でも、欠点だと思っていた不具合のおかげで、ヴァネロぺは危機を脱するのです。
欠点も使いよう、考えようによって欠点などではなくなるんですね。
これはきっと何かしらの障害を抱えた方への作り手からのメッセージなのではないかと思いました。


悪役という役柄をこなしながらも本当の悪には染まらぬ心優しき男と、欠点を長所に変えながらいつもゴールの先を夢見ている少女が育む友情物語。
ポップでカラフル、鮮やかなビット天国が織りなす愉快痛快な活劇と深いドラマに、最後の最後までガツーンと釘付けになりました。
「シュガーラッシュ:オンライン」もとても良い作品でしたが、負けず劣らず本作も、かなり本気でオススメ致します。
語るテーマがそれぞれなので、どちらが優れているかは甲乙つけがたい。個人的には同等の完成度だと思いました。


それにしても、Qバートはどの映画に出ても可愛いな(苦笑)


セル・ブルーレイ3Dにて