ゴト

ザ・マスターのゴトのレビュー・感想・評価

ザ・マスター(2012年製作の映画)
4.7
二回目だけど、素晴らしすぎる!

正反対だからこそ、教祖と信者ではなく一人の人間として惹かれ合うのだろう。髪の色、体型、性格、周りにいる人の数、様々な部分で真逆に位置している二人の男。バイクで走り去る方向まで反対だ。フレディはマスターを信じた。もちろん、信仰心からではなく一人の人間としてだ。だから、時に激しく罵りもしたし、時に再会を喜び、芝生の上を二人で転がったりもした。

要は何が先かの違いである。新興宗教にハマったことがないので想像にはなるが、多分こういったものは教えや行いが心に触れるので、それらを言う人、為す人を信じるのだと思う。逆に教えだとかを抜きに教祖と呼ばれる人間と心を通じ合わせることができたら、教えの内容がどうとかは関係なくなるのだ。

フレディは粗暴な男だった。すぐに女性にちょっかいを出し、何かあれば暴力で解決しようとする、側から見ればかなり厄介な男であった。そんなフレディにも、ドリスという決して忘れることのできない女性がいた。

フレディは、教団に身を置き日々を過ごす今と、向き合わなければならない過去との狭間に立つ存在であった。そんな振り子のようなどっち着かずの現状を象徴するかのようなシーンが、あの壁と窓との往復のシーンではないかと思う。

マスターは教団にとって危うい存在であったフレディを救おうとした。結果としては奏功したのだと思う。だからフレディはあの窓の外へと、現在から置いてきた過去、ドリスの元へと旅立つこととなったのだ。

面白いのは、フレディを救うことによってフレディがマスターの元を離れ、二人は別の道を行くことになる点である。

しかし、もっと興味深いのはこのフレディの過去である。フレディは兵士だった。それが戦争によって将来を誓い合った女性と離れ離れになってしまうわけだが、正に皆がイメージするアメリカ兵のエピソードそのままである。思えば女好きで粗暴な性格というのも、ある意味兵士としてはありがちな設定である。教団の中でフレディが異質たり得た根源的な理由もその辺りにあるように感じられる。

つまりこの映画自体が、力がものをいう戦争の時代とその終わり、そしてインテリジェンスが求められるこれからの時代。その狭間、或いはその移り変わりを表しているのではないか、そして、それぞれを象徴しているのがあの二人。そんな気もする。
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