回想シーンでご飯3杯いける

空気人形の回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

空気人形(2009年製作の映画)
4.0
性欲処理用の「空気人形」が人間の心を持ってしまう。空気人形を題材にした作品としては、ライアン・ゴズリング主演の「ラースとその彼女」があるし、日本にも、美女が缶詰として通販される「美女缶」という作品もあるが、それらが比較的軽いタッチの作品であったのに対し、本作は前半から後半へストーリーの振り幅も大きいし、大人の寓話とでも言うべき鋭いメッセージ性を持っている。

前半は心を持った空気人形が街に出て人と触れ合う可愛らしいストーリー。中盤以降では、知り合った人達の悩みや醜態に触れる事で、心を持つ事の苦しさや切なさをあぶり出していく。ここで登場する脇役陣が皆味わい深く、本作の大きな見所になっている。彼らは、画面の前にいる僕達の分身であり、「心」の尊さを問うてくるのである。

それにしても人形を演じる韓国のペ・ドゥナが素晴らしい。人間の心を持った人形という難しい役どころに、これほどハマる女優はいないだろう。親日家で知られる彼女が話すカタコトの日本語も、役にぴったりだ。

設定の性質上、性的にかなり際どいシーンも多い。男性側が皆グロテスクに性的欲求を表明しているのに対して、ペ・ドゥナは人形なのであくまで受身。受身なのだが、心を持っているので、、、、という絶妙な表情が、見る人によっては嫌悪感を感じるほどのエロティックさを醸し出す。

一見、可愛らしいファンタジーに見えるが、その実、人間の奥底にある葛藤や欲望に刃を突きつける、かなり挑発的な作品だと思う。