亘

君と歩く世界の亘のレビュー・感想・評価

君と歩く世界(2012年製作の映画)
3.3
【欠けてる2人の不器用な歩み】
アリは定職を持たないシングルファザーだった。大人になりきれない彼は夜警として働き始め、シャチの調教師ステファニーと出会う。数日後事故で両脚を失い塞ぎこむ彼女にアリは寄り添い始める。

アリとステファニーどちらも何かを欠いていて、人生の方向性を見失っている。アリは、シングルファザーなのに親としての責任感がない。冒頭、定職につかない彼は列車のごみ箱から食べ物を漁り息子サムに与え、さらに堂々と万引きを実行する。それに仕事についてからも多くの女性と行きずりのセックスを繰り返す。水族館のシャチショーを仕切っていて仕事を愛していたステファニーは、足を失ってからは自信を失う。さらに男を誘惑するというささやかな楽しみも失う。欠けている2人が互いに補い合い人生の喜びを見出す。

まずはアリがステファニーを支える。それまでアクティブだったのに車いす生活になりふさぎ込む彼女を、アリは散歩に連れ出しさらに海で一緒に泳ぐ。脚のない彼女に好奇の目を向ける人も多いけど、そんなものは気にせず彼は堂々と彼女を支え楽しませようとする。次第にステファニーも前向きになっていき義足で自ら歩こうともするし、事故現場となった水族館でシャチに出会ったりもする。「まだ機能するかしら」と言ってアリとのセックスにも挑戦するし再び人生を楽しもうと歩き始めるのだ。

ステファニーが明るさを取り戻すと、今度は彼女がアリを支える。新たな格闘技を始めた彼を、マネージャーのようにサポートする。劣勢であってもアリはステファニーの姿を見ることで奮起し相手に打ち勝てるのだ。いつしかステファニーが試合を取り仕切り、アリは彼女を「ロボコップ」と愛情をこめて呼ぶ。

ただ2人とも何か欠いていて自信がないのかどこか不器用で2人の仲は距離感を保ち続ける。きっとステファニーの"機能"のくだりも、どう距離感を詰めれば良いのか分からない2人の照れ隠しのようなものだったんだろう。きっと本心では「愛してる」とか言いたいけど、2人は"Opé(対応可能)"という言葉を合図にする。その後もクラブで別の女性を持ち帰ったアリをステファニーは批判する。終盤になってようやく唇にキスして距離を縮めたように見える。

距離を縮めた2人だったが、アリの状況が変わったことで一気に引き離される。そしてステファニーが日の射す南フランスに残る一方アリは雪降る山間の田舎へ行くのだ。この田舎で息子サムが大事故を起こしたことで一気に彼は親の自覚を得る。そしてこの事故で悲しむアリに今度はステファニーが寄り添うのだ。ほとんど連絡を取ってなかった彼女がこのタイミングで連絡するのは多少不自然ではあるけど、まさに彼女が脚を失った時の状況に似ている。

そしてアリはプロ格闘家としてステファニーと共に暮し始める。それまで2人とも欠けていて関係も少しいびつだったのに、最後にアリ・ステファニー・サムの3人でいる姿は、幸せな家庭が完成されているように見えた。

印象に残ったシーン:アリがステファニーを海へ連れ出すシーン。ステファニーが水槽越しにシャチと触れ合うシーン。2人が"Opé"と送り合うシーン。3人が楽しそうにいるラストシーン。

余談
原題"De rouille et d'os"は「サビと骨」という意味です。
亘