滝和也

博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったかの滝和也のレビュー・感想・評価

4.0
FLYING FORTRESS B52
悪名高きB29の後継機。
空飛ぶ要塞の異名通り、
空中給油を受ければ
無限の航続距離を誇り、
搭載する水爆の破壊力は
50メガトン…。

Here There!Dear Jhon!

「博士の異常な愛情」
以下略(笑)

スタンリー・キューブリックのブラック・コメディ。世界滅亡のシナリオを皮肉とリアリティを持って描く怪作。この作品の恐ろしい所は皮肉にも有り得そうなバカ話を誰にでも分かりやすく伝えてくる所でしょうね。

ストーリーは単純明快。米ソ冷戦時代、狂った米軍の空軍基地司令が爆撃機にソ連基地の核爆撃を命じます。暗号化された作戦司令のため、爆撃機を呼び戻す事が大統領にも出来ず、ソ連の支援も受け実行を阻止しようとして…。と言う内容。

オープニングから優雅すぎる曲で人類を滅ぼす事ができる悪魔の如きB52の空中給油を見せる皮肉からスタートします。全て軍部、政府要人しか出てこないストーリーなのですが、その全てが機能不全を起こしているポンコツである皮肉。そして、ラストに被る大戦中に流行った優雅なまた会いましょうの曲の皮肉ぶり。

オープニングで国防省が100%あり得ないと断るストーリーでありながら、ギリギリ有り得そうなお話に仕上げている恐ろしさがキューブリックの腕前ですね。

やたらリアリティのある空軍基地の戦闘シーン(デビューは戦争ものですし、後にその腕前はあの作品で花開きます。)除き、ほぼ戦闘シーンもなく、ペンタゴン、空軍基地司令室、B52の中の3つのカットバックで高められる緊張感が凄まじい故に皮肉にも笑えます。まぁ1番好きなシーン、笑えたのは、コング少佐とHere There!のあのシーンなのも皮肉なんですけどね(笑)

演者の巧みさがこれまた…(笑) まずは主要3役を演ずる匠、ピーター・セラーズ。大統領、空軍基地副司令官、そしてストレンジラブ博士。やはりこのドイツ出身の博士が強烈ですね。

「マイン フューラーいや大統領…」

のセリフ。ジークハイルのポーズにならない様に自分を抑えるバカ演技…(笑)そしてキューブリック組のスターリング・ヘイドン。狂った司令役なんですが、この方、ジョン・ヒューストン監督のアスファルト・ジャングルでも狂気を孕んだ演技が見事でハマってました。そして共産主義を憎むあまり、可笑しすぎる将軍にジョージ・C・スコット。パットン大戦車軍団でお馴染みですが、軍人役はお手の物ですからね。

怖さと皮肉と言うブラックコメディの王道を行く作品であり、このレッドパージ、赤狩りが終わった時代に登場した余りにも強烈なクラシックの名作です。

この話国防省は100%ありえないとしましたが…それはあくまでも軍人の話。では…この話でまともだった大統領がまともではなかったら…((((;゚Д゚)))) 今の大統領だからこそ、見ておくべき作品と言うのは余りにもブラックかな(笑)
滝和也

滝和也