このレビューはネタバレを含みます
反戦映画という印象だったのですが、めちゃコメディなのでびっくり!
戦勝国の立場がありますね…。被爆国の日本だったら圧倒的な嫌悪感が来て、コメディどころじゃないはず。ドイツも然り。ナチス式敬礼をいじっていく姿勢に拒絶感は拭えないはず。
冷戦下、核戦争への準備を進める東西両陣営に対して「怒り」を通り越した「呆れ」が体現されてる気がする。
笑いの爆弾もそこら中に仕掛けられているので、実際ムフってなる。でもムフの後味は「お前、笑える立場にあるのか?」「こうゆうバカに治められてるくせに」っていう苦いもので、嫌なとこ刺されたように胸が騒めくのだ。
体液エッセンスのジャックリッパー将軍の意味のわからなさ。フッ素水で共産主義の侵略を感じ取る生粋の狂人。
そんな1人のバカによって人類が滅亡に追い込まれるという笑い話仕様。爆弾に跨って落ちていくコング少佐はディストピアの象徴的シーンに。
安全保障だとか報復予防だとか言う軍人の妄言が、今この現実を暴走させていく感じ、色褪せません。半世紀経っても懲りてないですからね。
政治的には、抑止力がとんでも理論なことを示唆していると感じました。
それただの言い訳じゃん!巧妙なジョークの中に、戦争に必死になる余りに論理破綻していくアメリカ首脳陣の姿が浮き彫りに…
中でもキチガイ感を撒き散らすタージドソン将軍。コメディと滅法相性が良い「支離滅裂キレキャラ賞」は彼に授与されるべき。
抑止力を突き詰めると、皆殺し装置は理に適っている。人間が解除することができない。攻撃したら自動で全世界から生物が滅亡する。たしかにこれなら絶対に攻撃しない!
「それ公表しなきゃ意味がないだろ!」ってアメリカ側から突っ込まれるロシア大使。
「大統領は人を驚かすのが大好きなので」
突き抜けてふざけてます。漫才のような軽快さ。
ところが、皆殺し装置が発動された後のアメリカ首脳陣は気が抜けるほど焦っていない。
これが彼らの望んでいたことなのだ。
自分たちだけ生き残って、ストレンジラブ博士の元に新たな選民思想を迎え入れる。
戦争は、1番安全なところにいる人によって始められる事を忘れてはならない。
この物語を通じて観客にもたらされる完膚なきまでの絶望感…もはや哀愁。人類の愚かさはこのくだらない惨劇に値するのだろうか?
爆発の映像群を、人類の歴史のハイライトとして。