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フラッシュバックメモリーズの小のレビュー・感想・評価

5.0
テアトル新宿の「観ずに死ねるか!傑作音楽シネマ88」出版記念上映のイベントの最終日。自分的マスターピースに出会ってしまった。まだまだ少ない映画鑑賞経験ではあるけれども、今まで観てきた中で最高の3D映画かつ最高の音楽映画。

首都高で追突され、記憶に障害を負ったディジュリドゥ奏者・GOMAさんの凄い演奏シーンと同時に、彼の音楽家としての歩み、交通事故後の生きることの葛藤を、効果的な3D映像で映し出す。

そもそもディジュリドゥとは何なのか。オーストラリアの先住民アボリジニが1000年以上前に作ったとされる楽器。

シロアリに食われて筒状になったユーカリの木から作られ、管の一端に口を当てて唇の振動などを利用して音を出す。これは金管楽器のトロンボーンやチューバに似ているらしい。

でも奏法は異なり、絶え間なく口から息を吐き出すことで息継ぎの無音時間をなくす循環呼吸という、クラシック音楽では特殊な奏法が、ディジュリドゥは当たり前なのだ。

音は法螺貝のようだったり、パーカッションのようだったりする。太鼓の演奏や複数人での読経を聴いたときのように、ぼーっとなる感じもあるけど、音色が独特かつ複雑だから、もっと良く聴きたくなってしまう。

ディジュリドゥは、アルプスホルンみたいな長い楽器で、正面に向けて演奏する。この長さと3Dとの相性が良く、演奏中の映像はまるで音が飛び出してくるかのよう。そしてその背景に映し出されるGOMAさんの事故のこと、夫婦のこと、子どものこと。「神様、この記憶だけは消さないでください」。

映画は言葉で勝負したら本にはかなわない。だから映像と音で勝負するのだと、この映画ではっきりわかる。自分的マスターピースの『チリの闘い』のパンフレットにあったコメントを再掲したい。

<真に優れたドキュメンタリー映画、ほんとうに類い稀なドキュメンタリー映画は、ムービーカメラが、映画が発明されたことの、人類にとっての意味と意義を、理屈抜きに教えてくれる。(佐々木敦)>

今まで観たことのない3D映像、今まで聴いたことのない音色の演奏。どんな状況も受け入れ、前を向いて生きる音楽家GOMAさんの生き様に、言葉の説明はいらない。まさに「観ずに死ねるか!」。

上映後にGOMAさん、監督、成海璃子さんらのトークショー。続くGOMAさんの生演奏はこの日最高の万雷の拍手。とても得難い体験。「観ずに死ねるか!」ありがとう。
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