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ゼロ・ダーク・サーティのryodanのレビュー・感想・評価

ゼロ・ダーク・サーティ(2012年製作の映画)
5.0
2017-01-26

K・ビグロー監督作。
ウサマ・ビン・ラディン殺害の経緯を追った、「ハート・ロッカー」に続く、一連の対テロ戦争の物語。今回は、女性CIA分析官の個人的な感情による作戦として設定しているものの、描き出された内容は、一切の信条も入れない、淡々と既成事実をなぞっていくだけに終始している。決して世に出ることのない軍事作戦。ドラマにしてしまったら、この作品は無価値になってしまうでしょうね。全編、ほぼBGMがないのも、作品に高揚感を与えてしまうため、極力抑えた感じ。政治的な判断も当然あっただろうし、大儀なんてものは、最初から無かったわけだから。米国人にとっては、少々物足りなかったかもね。戦争に英雄なんていない現実を、米国はこの戦争で知ったはず。世に出てくる中東を舞台にした、まともな戦争映画に、英雄として描かれた作品が果たしてあったでしょうか。戦意高揚やプロパガンダに、半ばうんざりしているよう。行きつく先は、大概兵士のPTSD。ヒューマニズムなんてものは幻想。莫大な予算と時間を投じて、テロの首謀者を殺しても、心から安堵した人は、いったい何人いたのでしょうか。社会は一層懐疑的になり、分断が始まり、内なる怒りは沸々と燃えたぎっている。その怒りを経済格差に乗じて扇動し、新しい大統領が生まれた。その同盟国、日本も分断と憎悪の中にいる。解決の糸口を為政者や知識人達に任せていたら、国は亡びるでしょうね。風を一番敏感に捉えることが出来るのは、我々市民ですから。

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