高橋早苗

先祖になるの高橋早苗のレビュー・感想・評価

先祖になる(2012年製作の映画)
3.6
その人は
二階まで津波にのまれ
壁すら流された家の一階で

残った柱をさすりながら
この柱は
地震にも
津波にも
曲がっていない
と言った

「これが気仙大工の仕事」
と嬉しそうに話してた

・・・その顔に
迷いなど見えなかった

どこか
よそへ移ろう なんて考えは
元からないのだ


だけど
家の庭から見えるのは

何もかも流された
流されてしまった
気仙町の
・・・町並みとも呼べない位 何もない町


何処にも行かず
今すぐ ここに住もうなんて
出来るんだろうか


出来るんだろうか?
なんて、こっちの心配なんか
どこ吹く風で

佐藤直志さんは 今日を生きていく

家の前に
流されてきたものか
胡瓜が
鮮やかな葉を出しているのを見つけ
蕎麦の種を蒔く

休耕田を借りて 田植えをする

山に入り 木を切る

来年の春には
家を建てると

言った言葉の通りに
淡々と 目の前のことを


・・・こなしていく
と言えばいいのか
シンプルすぎて

ここで「暮らす」ことに
今日を「生きる」ことに

まっすぐすぎて?
当たり前のことすぎて

あの状況の大変さなのに
なんだか笑っちゃうくらい


直志さんを支える
菅野さんが言う
「当たり前のことをしてるからですよ」
の言葉に
本当に
後から
うんうん、と
頷いてしまうくらいに

まっすぐ、だ。



夏 けんか七夕

この町の人たちの
結びつきの強さみたいなものを観ると
離れたくないのも当然かな
と思えたりする。


半農半林という
仕事のせいもあると思うけど
・・・サラリーマンだったら
とりあえずでも
一旦は他所へ行っちゃう気がするんだ


そう思うと
雇われて働いてる人って
根無し草なんじゃないか って思えてくる



嫁も仮設に
連れ合いも離れて

かろうじて残った
骨組みだけみたいな家の
全てを寄せ集めて

そこでひと冬を越えて

そこから見える
町にのぼる朝陽を
新しい家からも拝みたいと


それはつまりは
この町で
最期を迎えたいということで

その覚悟は 誰にも
止められるものじゃなくて。



朝陽を見つめる
眩しそうなお顔を観てたら
ご一緒したいわーなんて(笑)
…思ってしまった
(奥さま、戻ってこないのかなー)



☆ 今はなき桜井薬局セントラルホールで、舞台挨拶に立った直志さんを観た。
スクリーンのまんまの笑顔に
見惚れた。
高橋早苗

高橋早苗