どうしよう。僕はあちら側の人間かも知れない。ラース・フォン・トリアー監督が好きだという、あちら側の。
人間の内面に宿る、真っ黒でどろどろの恐ろしさと醜さと残酷さのどん底。堕ちる所まで堕ちる。それを人は闇と言う。鬱と言う。地獄と言う。でも、それを真摯に描いたこの作品が堪らなく好きだ。
雪が降る夜、夫(ウィレム・デフォー)と妻(シャルロット・ゲンズブール)が愛し合っている最中、快楽に陶酔するあまりに一人息子が窓によじ登っているのを気付かず、転落死させてしまう。
完ッ璧なプロローグ。
モノクロとスローモーションで描く5分54秒で夫婦に起きてしまった悲劇を端的に描き出すその類稀なるセンスに驚愕する。
病んでしまった妻と
彼女を支えるセラピストの夫。
妻の恐怖の根源を辿り、2人は深い森の奥の山小屋へ。
章立てされたプロット。
プロローグ
第一章:嘆き
第二章:痛み(混沌と支配)
第三章:絶望(魔女狩り)
第四章:3人の乞食
エピローグ
ラース・フォン・トリアーは、優秀な映画監督であると同時に、雄弁な語り部でもある。彼が紡ぎ出す物語の求心力の引きの強さよ。しかし、彼はこの脚本を書き上げるまでに鬱病を発症している事を忘れてはならない。
闇(病み)を体現する女優、シャルロット・ゲンズブールに、カンヌは女優賞を授けた。彼女の魂の咆哮には震え上がった。
悲嘆、苦悩、苦痛、絶望—— 。
木の上から落ちて来た雛鳥。
雛鳥には蟻が集(たか)っている。
猛禽類の鳥がその雛鳥を食べてしまった。
そんな何気ない(何気なくないが)シーンに、ラース・フォン・トリアーの残虐性が暗示されているよう。
山小屋の屋根に落ちてくるどんぐりの音すら怖い。
途中までは、落ち込む妻を支える、美しい夫婦を描いていた筈なのに。
妻、シャルロット・ゲンズブール、
裏コード999、ビーストモード!!
覚 醒 ! !
うぉおおおおおおおおおおおおお!!!!
どこよ!!
どこなの!?
ワタシを見捨てるの!?
助けると言ったくせに!!
クソッタレ!!
脚に砥石!!
アレはチョキン!!
何だこの妻!?
恐 ろ し い ! !
痛い。
苦しい。
観ていられなくなる。
何度も一時停止して深呼吸。
何度もセーブしないと、このRPGはクリア出来ない。
おセックスも含め、生々しい描写で人間の醜さを描いたと思いきや、3人の乞食と称し、苦痛、絶望、悲嘆を象徴する狐と鴉と鹿を登場させる神話的かつ哲学的なアプローチにまた唸る。
生々しくてエゲツない作品なら、誰でも撮れる。でも、お伽話的なファンタジーを栞の様に挟み込む監督独自のオリジナリティが堪らない。
気付けば(亡くなった子供を除けば)、登場人物はたった2人。名前すら排除している事に気付き、また震える。
戦争反対、ラブ&ピース。
そんな事を日々願いながらも、こんなエロくてグロくて"終わっている"作品にエールを送る。
そんな矛盾を孕んだ私をどうかお許し下さい。ジーザス・クライスト。