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約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯のodyssのレビュー・感想・評価

3.5
【日本の裁判システムに疑問を投げかける貴重なドキュメンタリー】

名張毒ぶどう酒事件とその裁判を題材にしたドキュメンタリーです。

この事件は私が小学生の頃に起こったので、新聞での報道は時々読んでおり、事件の概要は知っていましたが、裁判の様子や有罪となる証拠の詳細については全然知識がなかったので、この映画を見て「なるほど、そうだったのか」と教えられるところが大でした。

本作はドキュメンタリーとして見た場合、前半にやや難があります。被告と母親との関係に時間を使いすぎているのです。この映画は関係者の実際の写真や映像以外に、俳優がそれを補って重要な場面を映像化していますが、ここでは母親役の樹木希林がいささか出過ぎの感がある。母子ものの映画ではないのですから、もう少し自制して欲しかった。

勘ぐるなら、母と子の関係を描けば観客の涙を誘って効果的だと計算したのかも知れませんが、私に言わせればむしろ逆効果です。こういう映画ではあくまで冷静かつ客観的に、裁判の不条理や証拠の希薄さを分かりやすく描くべきなのです。

というわけで前半はやや辟易しながら見ていたのですが、後半は裁判所の人事の不透明さや、証拠の杜撰さ、近所の人の証言が二転三転しているという事実など、裁判のあり方への批判が説得的に展開され、なかなか良かったと思います。ただ、酒瓶の王冠に残った跡についての新鑑定の部分は分かりにくかった。もう少していねいな説明が望まれます。

いずれにせよ、冤罪の疑いが濃厚な事件や裁判について、この種の映画が作られるのは大きな意義のあること。他にもこの手の映画は制作されていますが、今後も類似の映画には注目していきたいと思いました。
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