HicK

風立ちぬのHicKのレビュー・感想・評価

風立ちぬ(2013年製作の映画)
4.7
《素晴らしい恋愛映画》

【純粋な二郎】
「飛行機は戦争の道具ではない、夢だ」という思いを胸にまっすぐと生きていく様は、「ショーシャンクの空に」の主人公のように、"結果的に環境に使われ悪に手を貸してるように見えるが、本人は純粋に自分の思いに従っているだけ"の姿と重なる。生きる環境、時代が違えば…と終始思ってしまったが、いつの時代も夢をまっすぐに追いかける人間は魅力的。

【純粋な恋愛映画】
初鑑賞時には思わなかったが2度目の鑑賞で感じたのが、これは純粋な「恋愛映画」だったということ。前半の尺をたっぷりと二郎という人間の紹介に当てた事で彼に肩入れし、後半の菜穂子との関係性が眩しいほど素敵に、そして切なく、やるせなくも感じた。こんな波乱の時代に駆け落ちのような形での結婚や素直に手を握り合ったり、好きだよと言ってキスをしたり、抱き合う。まっすぐな二郎という人間を見てきたからこそ、真面目に愛するがゆえの自然な行動であると分かるし、それだけで切ない。過酷な時代だが2人の関係は現代の恋人となんの変わりもない。この時間がずっと続けばいいのにと思ってしまい、2回目にして初めて涙した。

【演出】
飛行機や地震の効果音が人の声、もしくはそれに似た音だった。実際はどうなのだろう。不穏な感じはよく出ていた。そして震災の地割れから波打つ地面の表現は改めてとても良く表現されているなと感じた。

エンディングテーマの「ひこうき雲」。元からあった曲だとは思えないほど歌詞がぴったりと合っていて、この映画のために存在してるとしか思えなかった。本当に素敵な曲。立派な映画の一部。

【ただ一つ】
やっぱり二郎の声に違和感を覚える。"アニメ声"を好まないジブリの主義は好きだが、二郎の場合は自然という感じではなく逆に年齢にそぐわない声と無機質さで不自然に感じてしまう。これは何回見てもこの声が正解かつ成功なのか?と疑問に思ってしまう。今でもよく分からない。

【総括】
重要な場面ではいつも風が吹く。語らずとも髪の毛のなびき、草木の揺れから、清々しく凛々しく信念にまっすぐ生きる二郎を感じ取れる。そんな数々の素晴らしい描写から、彼に肩入れし、菜穂子との関係をずっと見守っていたい気持ちにさせられた。素晴らしい恋愛映画だった。
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