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風立ちぬの会社員のレビュー・感想・評価

風立ちぬ(2013年製作の映画)
4.0
夢に形を与える仕事、航空機の設計に魅せられた一人の男の物語。


一次大戦、関東大震災、不景気、様々な苦難を抱えた生きづらい時代において、主人公は航空機設計の仕事に携わる。
吹き続ける風に導かれるようにして、貧しい国民、平和な世の中、そして愛する妻をも犠牲にしながら仕事に邁進する。しかしその背景にあるものは、美しいものを作りたいというその一心のみであった。


最も印象的なのは、結婚の儀を執り行う夜のシーン。
重い病を持つ菜穂子と共に暮らす決断をした主人公は、それは愛情ではなくエゴイズムではないか、との問いに対し、二人には時間がない、覚悟は出来ていると答える。
そして彼女を高原病院に戻さないどころか、同じ部屋で煙草を吸う。そうした行為そのものに対する批判は、やはり創作物に対するものとしては的外れと言える。
妻を持ったからこそ仕事に打ち込める。死を意識するからこそ、今の生を強く意識する。作中で描かれた、ごく短い理想的な結婚生活は、限られた中で全うした、二人だけの生の形なのである。なんと美しいことか。


あらゆるものを犠牲にし、人生をかけて完成させた航空機は結局、あたかも大空に飲み込まれたかのように、一機も戻ることなく、日本は敗戦を迎える。
それでもなお、風は止むことなく吹き続ける。風が吹く限り、生きねばならないのである。


宮崎駿監督の最後の作品になるはずであった映画。一つの生きざまを描いたものである。素晴らしい。
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