そこは高原の避暑地のようなところ…
広々とした敷地に色々な施設が点在していて、青い空をちょっとビックリするような早さで雲が流れている。
その高原の小さなスタジオで女の子ばかりのバンドが練習をしていて…おれの彼女はそのバンドでキーボードを担当しているんだ…
おれは高原の小道をそこへ向かって歩いているんだが、まだかなり離れているはずなのに彼女たちが演奏する楽曲がなぜか聞こえてくる。
ユーミンの「ひこうき雲」だ…
白い坂道が 空まで続いていた
ゆらゆらかげろうが あの子を包む
誰も気づかず ただひとり
あの子は 昇っていく
実際に聞こえてくるのではなく、まるで映画音楽のようにおれの周りで流れているんだ。
やはり…映画のようにカットが切り替わると彼女たちがこの曲を演奏していて…彼女がキーボードを弾きながら歌っている。
視点がおれに戻っても続く「ひこうき雲」…
おれはその高原の道で杖をついた一人のおばあちゃんに追いつく…
会釈をしながら追い抜こうとすると…
「あ…」
おばあちゃんがよろめいたように見えたのでサッと腕を取って支えるようにした。
「ありがとうございます…生きていればちょうどあなたぐらいの歳かしら」
「え?」
「孫娘ですよ」
「亡くなられたんですね」
彼女の腕を支えてゆっくり歩く。
相変わらずBGMのように「ひこうき雲」が流れている。
さびの部分を歌い上げる彼女のカットが一瞬入る…
「はい、あの子はひこうき雲になったんですよ」
「え?」
驚いたおれは思わず立ち止まっておばあちゃんの顔を見る…
空に 憧れて 空を かけてゆく
あの子の命は ひこうき雲
おれたちからカメラがスーっと離れるように上空に上がりその美しい避暑地を見渡したところで…
おれは目が覚めた…
高校の夏休み…昼間…
おれは自分の部屋で汗をかいて寝ていて…つけっぱなしのラジカセからはユーミンの「ひこうき雲」がけっこうな音量で流れていたのです。
高校生のおれは体を起こすと頭を掻きながら思わず苦笑しました…
寝てるときにあの歌が聴こえてきたから…あんな…映画みたいな夢を見たんだな…
それから夏休みでけっこう会っていない彼女のことをぼんやり考えました…
この夢はすごく印象に残っていてことあるごとに思い出してはいたのですが、40年近くも経ってこの映画を観たときとても不思議な気分になりました。
あの時、もう出会っていたのかも知れません…夢の中のシーンがジブリタッチのアニメに置き換わってしまう気がしました。
「風立ちぬ」
もう5年か…
実は最初…映画館で観たとき肩透かしを食らったというかよくわからなかった印象がある…
まだ小さかった息子を連れて観に行ったので「過去のナウシカやラピュタを越えるワクワクするアニメ」を期待していたからでしょう…
だけどいよいよ平成も終わる今…さらに遠くなる昭和を描いたアニメを見直して観て今更ながらに衝撃を受けてしまいました。
つくづくこれは「大人のアニメ」だ!
5年前におれは何観てたんだろうね💦
もう、忘れさられようとしていますが…日本人の美徳って謙虚さだと思うわけです。
「自分が自分が」って声高に主張するのって「品がない」と思う。
いやいや欧米を見習って少しはアピールしようよという意見もあるでしょうがそれを下品と感じてしまう…
だから…日本のエンターテイメントって主人公の素晴らしさを脇に言わせるってみんな大好きだよなって思います。
「頭文字D」で…たくみは黙って86を走らせていると名もなきギャラリーのひとりが言う…
「なんだあれ?俺たちの思ってるドリフトとは次元が違う!鳥肌もんだぜ!」
ガンダムの戦いを目の当たりにしたザクのパイロットが震えながら呟く…
「は…速すぎる!あの白いやつは悪魔だ!」
これこれ…こういう間接称賛が謙虚な日本人は大好きなんですよ…
宮崎駿はこういう脚本が上手い人で主人公の凄さを本人ではなく周りに言わせて観てるこちらにカタルシスをくれる…
「なんて気持ちの良い連中だろう」
「いい子だったなー」
「不思議な力だ」
…キリがありません…
主人公の二郎の声を庵野秀明氏に当てさせたことでかなり物議を呼びましたが観れば観るほどこの声以外にない気持ち…
喜怒哀楽を表に出さずあの声であの言い方…
孤高の天才…宮崎駿自身なのです…
そして称賛は周囲に言わせれば良い…
この映画の場合、会社の課長…彼がすべてを代弁してくれる。
「綺麗な線を引くな…」
自発的勉強会の二郎を見た課長と黒崎…廊下を歩きながら…
「いやぁ…面白かったな」
「感動しました」
沈頭鋲…
戦争の道具になってしまう「美しい」飛行機…
宮崎駿は「美しい」アニメを作る…
菜穂子と手を繋いでタバコを吸うシーン…
こんなシーンを入れれば世間がどう言うか宮崎が分からないはずがない…
あえて入れたのだ。
黒崎は言う…「君の愛はエゴイスティックではないのか?」
いつの時代も自分勝手な愛を振り回す男と健気な女性を自虐的に言いたかったのか?
祝言の席で菜穂子の花嫁姿に淡く霞がかかったように白く見えるのは何故か?
黒崎の妻が…
「美しいところだけ好きな人に見てもらったのね」
…と言ったとき…不覚にも少し泣いてしまいました。
初見時…よくわからんラストだなぁと思った記憶があるのですが…
今回…よくわかる…
最後のゼロのテスト飛行の時、突然音が消える…呆然と山の方を見る二郎…
まだなにも知らないはずなのに…
ここでも少し泣いてしまいました…
おっさんよく泣くね…
そして最後に流れる「ひこうき雲」でもまた泣きました…
高いあの窓で あの子は死ぬ前も
空を見ていたの 今はわからない
ほかの人には わからない
あまりにも 若すぎたと
ただ思うだけ けれどしあわせ
空に 憧れて 空を かけてゆく
あの子の命は ひこうき雲
宮崎先輩…自分ではたぶん言わないだろうからおれが言っときます…
いろいろめんどくさいお人だが…やっぱりあなたは天才だと思います😸💦