せーじ

風立ちぬのせーじのレビュー・感想・評価

風立ちぬ(2013年製作の映画)
4.6
154本目。
2019年4月12日放送の金曜ロードショウで鑑賞。
リアルタイムでは見逃しており、今回が初鑑賞。

ちょっとどうかと思うくらい、エゴイスティックな作品で驚いてしまった。

思うに、ジブリ作品でここまで身勝手な主人公は、未だかつて存在していなかったのではないだろうか。「美しい飛行機を作りたい」という目的のために、己のすべてを注ぎ込んでいた男がそこにはいたのだが、その目的のために"悪魔"に魂を売り、「出来たその後」のことなどはハナから眼中になかったのはもちろん、大切に思う人まで結果的に巻き込んでしまうという身勝手ぶりには、観ていて心底嫌悪感を投げつけたくなる。

だが同時にこれは、無から有をつくり出そうとする人々、つまり創作をしようとする人々の心の奥底には、大なり小なり巣くっている感情なのではないだろうかとも思う。大抵は「この世界の片隅に」のすずさんの様に絵を描く筆が欲しいと思っても「今うちは、何を考えておるんじゃ」と我に返り自分を律していくものなのだろうけれども、そういう考えがハナから無いまま、純粋すぎる欲望をストレートにブレることなく満たそうとする主人公の姿は、ひたむきなようでいて実はとても恐ろしい存在の様にも見えてしまう。
また、ある意味それに巻き込まれたとも言えるヒロインも易々と情愛に乗っかってしまい、そのくせ最後には…という意味ではある意味主人公に負けないくらい意固地で身勝手な行動をとっていると言えるのかもしれない。状況に翻弄されるというよりも、二人とも最後まで我を貫き通しているだけのように思えてならなかった。

創作をしていく人間の"罪"を一身に背負うことを厭わず、これこそが作りたかったものだと堂々と掲げ、それがどう使われ、どう捉えられ、どういう結果を招くのかは気にも留めずに、ただただ「他の人にはわからない」という言葉だけを残してこの作品を世に送り出した作り手のエゴイスティックだけれど純粋な姿を、この作品で余すところなく見せつけられたような気がしました。

物凄く重い嫌悪感がありますが、絶対に忘れられない一本になりそうです。
せーじ

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