mimitakoyaki

かぐや姫の物語のmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

かぐや姫の物語(2013年製作の映画)
4.8
ジブリにも高畑勲監督にも特に思い入れはないのですが、金曜ロードSHOW! で追悼番組的にやってたので見て、もう素晴らし過ぎて公開当時に映画館で見なかった事を本気で悔やみました。

ラフに描いているようでとても繊細な独特の絵がとにかく味があり、お爺さんが切った竹を担いで歩いたり落としたりする初めの描写から心を鷲掴みにされました。

かぐや姫が生まれ、お爺さんとお婆さんのもとでどんどん成長していくシーンも、赤ちゃんの柔らかな肌の感触まで伝わってくるし、愛くるしくて生命力に溢れたひとつひとつの動きに目が離せませんでした。

お爺さんが村の子どもと競うように手を叩いてかぐや姫を呼ぶシーンには、地井武男の声と相まって、深い愛情と喜びの大きさがこの上なく感じられたし、老夫婦と子ども達の日々の暮らしや、四季折々の里山の豊かな自然が織りなすひとつひとつの小さな何気ない営みが、本当に美しく、かけがえないもののように慈しみ深く描かれていて、わたしはとても幸せな気持ちになったし、それだけで胸がじんわりとしたのでした。

美しい自然があり、血の繋がりはなくても愛情もって育ててくれる人がいて、いっぱい遊べる友達がいて、頼りがいのある憧れのお兄ちゃんもいて、自分が自分として当たり前に認められる、そんな生きることや幸せの原点を見せてくれたように思えました。

前半たっぷりと描かれた里山での暮らしが多幸感に溢れていたのとは対称的に、都に移り住んで高貴な姫になるための生活の息苦しさや退屈さは、富や地位があっても、本当に生きたいように生きられなければ幸せにはなれないし、自由と自然と自分らしい生き方を望みながらも許されないことへの悲しみや怒りから、ひとりの人間ではなく「女」として生きることしか認められず、自分を殺して生きなければならない事の残酷さと絶望を突きつけています。

女だから、美しくあることに価値をおかれ、本人の意思は無視され、自由もなく、やがて男の格を上げるための所有物となる。
そんな事を押し付けられる事への精一杯のもがきや叫びは、セクハラの被害者が責められたりなど、女性の地位が世界レベルで見ても低すぎる日本の現状や、世界中で起きているMeToo運動など、昔話の頃から今も現在進行形で抱えている問題と繋がっていると感じ、ひとりの人間としてのかぐや姫の慟哭がわたしの胸に突き刺さりました。

そんな深いテーマとともに、満開の桜の下でかぐや姫が躍動するシーンをはじめ、命の力強さ、自然の優しさ、怒りや悲しみ、喜びといった人間らしい感情を細やかに鮮やかに線のタッチで表現されていることにとても感動しました。

こんな素晴らしい芸術作品を作られた高畑勲監督。
きっとかぐや姫が行ったような人間らしい感情を持たない極楽浄土とは違う場所で、平和を願いつつ、笑ったり怒ったりしてる気がします。
合掌。

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