九月

世界にひとつのプレイブックの九月のレビュー・感想・評価

4.7
主人公の性格とか置かれている状況とか、設定とかストーリーとかもはやどうでも良くて、何がか分からないけどとにかく好みだと序盤で確信する映画がごく稀にある。
最近観た『アリー/スター誕生』もまさにそうだったのだけれど、軽い気持ちで見始めた分反動もあるのか、知らず知らずブラッドリー・クーパー(が紆余曲折を経て恋愛する映画)が好きなだけなのか…。

パットが施設を出所するところから始まり、彼が双極性障害であることや、心を壊されてしまった直接的な原因が少しずつ明かされていく。
薬は飲みたくない、自分なりに身体を動かして気持ちを整える、と言い張り実践したり、突発的な行動に出て両親を困らせたりする姿も、初めは愛嬌のように感じた。
でも、本当はまだ施設にいた方が良いのではないかと誰もが思うほどで、躁状態とうつ状態を繰り返すところや、カッとなり暴力に走ってしまう姿は見ていてかなり辛いものがあった。薬を飲んでいないことがだんだん恐ろしく思えてくる。

近所に住む友人の義妹ティファニーとの出会いで、物語が大きく動き出すことになるが、彼女の方が傷が深く、より深刻なように見えた。
パットには、元妻のニッキーとまた一緒に暮らす、という目標がありそのことを心の拠り所にしている。でも、ティファニーは夫を亡くしており、そのことがきっかけで精神を病んでしまったよう。

パットにもティファニーにも、突飛な言動やころころ変わる態度に驚かされるばかりだが、一方で、人間誰しも気分の浮き沈みはあるもので、共感できる部分も案外多かった。

このふたりが心を通わせるなんて全く想像がつかないし、パットはニッキーと元に戻れると信じているということも相まって、初めは…というか終盤まで、ふたりの間に恋が始まるなんて、半信半疑だった。
ティファニーの素直じゃない恋心が見え隠れしたり、パットももしかして…?と思ったりするような微妙な描写が最後は多くて、やきもきしながらもふたりの胸の内を想像しながら見守った。
同じ女性目線だからなのかティファニーの気持ちに先に気づいたけれど、パットにはニッキーがいるから…とティファニーと同じように切ない気持ちになる場面も多々。

思えばふたりとも、出会った頃から、攻撃的な物言いをしてしまうことの方が目立っていたけれど、他人を思いやる優しさや繊細さだって確かにあった。
最後は仲睦まじく見つめ合うふたりが別人すぎて少し笑ってしまったものの、あんなに怖い顔をしていたふたりがとても優しい顔つきに変わっていて、良かったと思えるラストだった。

ロバート・デ・ニーロ演じるパットの父親パトリツィオ、表面的には家族思いで優しそうに見えるが、危なっかしい言動が多くて、見ていて気が滅入ってしまった。元妻の浮気が引き金になったとは言え、父親との関係や家庭環境も少なからず影響していそう。そんな父親が暴れ出す中盤からは、ふたりの物語に集中できず、意識が散漫してしまったけれど、この父親が一番の見せ場での盛り上がりを最大限引き出してくれたようなもの。あの高揚感と、そこからエンディングまで一気に駆け抜ける疾走感がたまらなく気持ち良かった。
九月

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