香港

愛、アムールの香港のレビュー・感想・評価

愛、アムール(2012年製作の映画)
2.8
これはハネケ版の「叫びとささやき」って感じでしょうか。そして介護映画ですね。介護疲れ映画でもあります。介護する側が最初に戦うのは、実は介護される側のプライドなんだってところとか、次第に言葉がうまく操れなくなってくるところとか、そういった部分での生々しさと、それに戦う覚悟を試される心の息苦しさを描いているという部分では、とても端正で丁寧に撮られた映画だと思います。そして役者の演技も凄まじく素晴らしいと思います。

しかし介護ってもっとハードだと思うんですけど、ハードな部分は結構さらっと描かれちゃってますよね。うんことかおしっことか風呂に入れさせることの難しさとか、随分と端折ってましたよね。トイレのシーンも入浴のシーンも1回しか出てこないよね?尿瓶を確認するシーンはシーツの後ろに隠れちゃってるよね?俺は母親が介護の仕事をしてるので、介護に関してはすごく生々しい話を聞いてきただけに、その部分でこの映画は正直「生ぬるい」と思います。介護する側が爺さんにセクハラされるとか、そういう生々しいことがいくらでもある世界なんですよ。そこがよりによってハネケなのに随分ぬるいな、と思います。

そういった介護では絶対に不可避な部分が、随分とさらっとしていたので、全体としては非常に淡白な印象を受けてしまいました。淡白になったらいけない話だと思うんですけど、必要な要素がいくつか抜け落ちているんですよね。さっきこの映画は心の葛藤をとても端正で丁寧に撮ってると書きました。役者もすごいです。作品としての骨格は本当に強靭で、見事だと思います。

ただ、それは間違いないんですが、そこに説得力を与える重要な(いや、不可欠な)要素が抜け落ちちゃってると思うんですよね。デザインも強度も完璧な鉄骨を組んだのに、コンクリートがゆるい建物みたいなんです。葛藤とか迷い等といったメンタルの戦いと、糞尿の匂いや入浴させる難しさ、床ずれ・褥瘡等といったフィジカルの戦い。この2つをしっかり両立させなくてはいけないんだと思うんですよ。そしてそのフィジカルな部分は話を美しくさせないかもしれないけど、ミヒャエル・ハネケという人のフィルモグラフィを考えれば、何故そこをぬるく描いてしまったんだろうと思います。

だからこの映画って「重くない」んですよ。現実はもっと「重い」です。それを誰もが覚悟をしなくちゃいけないんです。鳩ポッポ。
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