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愛、アムールのふふいのレビュー・感想・評価

愛、アムール(2012年製作の映画)
4.7


登場人物たちの息遣いがそのまま聴こえてくる素晴らしい映画。
ミヒャエルハネケ監督の長回しや、動きのある対象ではなくそれを見ている人、待っている人を写し続ける手法が見事にマッチしてとてつもない世界観を産んでいる。



自分も老体なのに、アンヌとの約束を守り続けるジョルジュを見て、この2人にとってお互いは歯磨きのように不可欠な存在なんだなと思わされる。
若いカップルの言う"この人がいないと生きていけない"は別の人のことが考えられないくらい好き、くらいの意味だろうけど、この2人にとっては食事、歯磨き、睡眠のように、文字通りそれのない生活が想像できない(生きていけないから)という存在なんだろうな。介護のシーンを通してももちろんだけど、アンヌの病気が発覚する前のたった数分のコンサートと朝食のシーンでこの夫婦の絆を表現するハネケ監督が見事。


自分の好きなように体を動かせないアンヌの屈辱が少しずつ大きくなり、また意識が少しずつ遠くなり、ジョルジュの考える"アンヌのため"も少しずつ変わっていく。この、少しずつの描写が非常に丁寧。丁寧だけどひとつひとつのシーンにたくさんの感情が乗っていて退屈しない。そしてこの丁寧さによって初めてバチッときまるオープニングとエンディングにあっぱれの一言です。


途中でやって来て、母親に会いたい、鍵をかけるなんてと正論をかざすエヴァは自分で介護をしていないから言えるんだよ。もはや愛と正論だけじゃ解決できないところにアンヌはいるから。






以下、ハネケ監督のハッピーエンドのネタバレあり






同一人物としてではないですが、ハネケ監督のハッピーエンドにもジョルジュという名前のおじいさんが出てきて、妻を枕で窒息死させたことを告白するシーンがあり、同じ俳優さんが演じています。愛、アムールを観たあとだったらまた別の見方ができて楽しそう。
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