見終えた後、この皮肉にまみれたタイトルを再確認して絶句した。この映画には盲信することの危うさと恐ろしさが、まるで磔にされ寒空の下で晒されているかのように描かれている。誰もが自分の中で罪など侵してはいなかった。だからこそ、『責任は誰にあるのか分かりますか?』などという能天気な問いかけが何よりも重くのしかかる。まさかこれが2005年に実際に起きた事件とは、フィクションであってほしかった・・。
この静かなる衝撃作を手がけたのは、自国の負の遺産を生々しく画面へと焼き付ける、ルーマニアの鬼才クリスティアン・ムンジウ。固定されたシーンと動きの少ないカメラワークは、この映画のドキュメンタリー制を強めており、否が応にも劇中の修道女たちの中に放り込まれてしまったかのような、ヒリヒリとした緊張感を痛感することになる。崩れかけていた雪がちょっとした衝撃で雪崩となって転落するように、異質な平穏は不愉快な音を立てて崩れていった。
〜あらすじ〜
ルーマニアの孤児院で育ったアリーナは、同じく孤児院から巣立ち修道女となったヴァイキツァに会うため、彼女の住んでいる丘の上にある修道会の集落を訪れる。孤独に怯えるアリーナは愛するヴァイキツァと再び一緒に暮らすことを望んでいたが、当のヴァイキツァは神への信仰に目覚めていたため、その集落を離れるつもりはなかった。
二人でドイツへと逃げることを拒否されたアリーナは、突然暴れ出し、井戸の中に身を投げようとするところを修道女たちに取り押さえられ、病院へと搬送された。
アリーナはカラテを嗜んでいたこともあり、暴れたら手が付けられないほどの力を持っていたが、入院したことで何とか正気を取り戻していく。だが、それも束の間、アリーナはヴァイキツァを集落から何とか脱出させようと再び修道会へと戻ってくることになり・・。
〜見どころと感想〜
150分と長尺の映画だが、無駄なシーンの無い見事な脚本力を持った作品だ。俗世界から断絶されたコミュニティ(宗教)の危うさと、孤児院で育った若者たちの苦しみ、という宗教的かつ社会的な二面性のあるテーマを同時に打ち出すことに成功。ルーマニアの負のスパイラルは未だに続いており、先の見えない闇のようなラストカットに全てが集約されているようにも感じた。
悪魔祓いだなんて中世の話じゃないのか?と思わせるほど浮世離れしているが、これが実話ベースでしかも比較的最近の事件だというのだから、何とも恐ろしくてやり切れない。そしてこの重過ぎるテーマを最後まで見せ切るムンジウの監督としての力量はやはり本物。今後も作家性の強い作品で世に一石を投じ続けてほしいと思いますね。
〜あとがき〜
この映画は誰もが自分自身に嘘を付いていないので、一番胸糞に感じたのは最も正論を述べているドクターや警察たちの言葉、という何とも不思議な現象が起きていました。
圧倒的な悲壮感と出口の無さ。白い空に黒いローブばかりの画面には色彩など見当たらず、まるで行くあてもない誰かの残像のように殺伐とした世の中。それだけにズッシリ来ますがかなり見応えのある作品でした。