『それでも僕は、やってない』
脂身のある鬱エンタメかなと思って観たら、考えていた以上にジメジメとしていて、批評性が凄まじかった。
マッツが性犯罪者に仕立て上げられる下りが心理のわからないホラー的なものでも何でもなく、明確に「愛の拒絶」(その上すれ違い)で起こったものなのが何よりも恐ろしかった。
諸悪の根源である子どもの面倒を見ていなかった夫婦の仲がマッツの存在によって逆に修復されてしまうという最悪の皮肉
村八分にされる展開は当然恐ろしいが、何より恐ろしいのは全ての所業が「起こってもおかしくない範囲」に収まってしまっている事。
一方で味気ない作品でもなく、照明・陰影の使い方が素晴らしい。
適度に挟まれるホラー映画のようなおどろおどろしい一枚絵や美しいショットがいくつもあり、映像的にも価値ある作品だった。
冤罪事件の問題点をここまで綺麗に視野広くリアルに捉えた映画は他に殆ど無いと思う。
鬱映画に留まらぬ、育児映画の傑作
どう穏当に纏まっても指してくるような視線はやはり残るのだなと思っていた矢先、ラストの森のシーンでより深く深く突き立てられた。