★ 邦題に騙されてはいけない隠れた傑作。
これは本当に酷い邦題。
製作者は配給会社に強く抗議するべきです。訴訟も辞さずに強気で攻めましょう。最悪の邦題と言われた『バス男』だって改題できましたからね。本作も改善できるはずです。
何しろ、主人公は「小説家」ではありません。
彼は絵本作家であり、そこから脚本家に転身しようとして犯罪者たちを研究している男です。確かに文筆業としては同じですが、立ち位置が違います。
また、主人公に怪しい言動が多いのは事実。
劇中で「変態」と揶揄されても不思議ではありません。しかし、それには涙無くして語れない理由があるわけで、それを「変態」の一言で切り捨てるのは、デリカシーの欠片すらもない所業。鬼です。悪魔です。
勿論、これらは鑑賞すれば分かる話ですからね。配給会社の担当は鑑賞したのでしょうか?ブリーフ姿で怯えるサイモン・ペッグのパッケージ写真を見ただけで決めたのではないでしょうか?
ちなみに原題を直訳すると『すべての幻想的な恐怖』。そう。笑える場面もありますが、本作を支配しているのは“恐怖”。そして、主人公を苛ませる“痛み”。
本作は“居場所”の物語でもあります。
神経症が進行し、強迫観念に囚われた主人公が一歩を踏み出す物語なのです。また、天才とナントカは紙一重だと実感できる物語でもあります。
これはね。贔屓目に言っても傑作ですよ。
笑うことも、嗤うことも、怖がることも、泣くことも。様々な感情をぐわんぐわんと揺さぶる物語。特に棄てられた経験があり、それを克服した人ならば、確実に沁みると思います。
だから、逆に言えば。
孤独を知らない人には響くことがないのでしょう。それこそ『変態小説家』なんて揶揄するような邦題をつけて、のほほんと暮らしているに違いないのです。けっ。このリア充め(←被害妄想)。
まあ、そんなわけで。
物語、ビジュアル、音楽共にバランスが良い作品…なのに、いまいちパッとしないのは邦題の所為。勿論、僕も“先入観”を抱いたからこそ、良い方向に裏切られたんですけどね。あ。もしかしたら、配給会社はそれを狙った…のかも?
何はともあれ、オススメですよ。