タケオ

凶悪のタケオのレビュー・感想・評価

凶悪(2013年製作の映画)
4.0
 1999年に茨城県で起きた「上申書殺人事件」の首謀者逮捕までの経緯を描いたノンフィクションの犯罪ドキュメント『凶悪 -ある死刑囚の告発-』(09年)を原作とした、白石和彌監督の長編2作目となるクライム・サスペンス。死刑囚から3件の殺人事件とその首謀者でもある「先生」と呼ばれる男の存在を聞かされた記者が、次第に自らも事件の闇に飲み込まれていく姿を描く。
 大胆に物語を3つのパートに分けることで、陰惨な殺人事件を「エンターテイメント」として成立させようとするクレバーな試みが、見事に功を成しているように思える。制作陣の意図したうちだとは思うが、やはり暴力団組長の須藤(ピエール瀧)が「先生」こと不動産ブローカーの木村(リリー・フランキー)とともに保険金殺人に手を染めていく第2部の凄まじいテンションには、思わず圧倒されてしまった。悪虐非道の限りを尽くす2人の姿からは、「金になるかどうか」という短絡的な価値観でしか物事を考えられない、共感性を欠いた人間存在のペラペラさが顔を覗かせている。まるで共犯として現場に立ち会っているかのような、2人とともに犯罪を楽しんでいるかのような、そんな「居心地の悪さ」を感じずにはいられなくなる。2人が借金まみれの経営者の牛場(ジジ・ぶぅ)を殺害する場面は、第2部に満ち溢れる歪んだ「高揚感」と「居心地の悪さ」が頂点に達する本作屈指の名場面といっても過言ではないだろう。
 また、主人公藤井(山田孝之)の姿を通して、本作のような「実録犯罪もの」に耽溺する鑑賞者の心理そのものを批評してみせる第3部の構成も実に見事である。事件ばかりに気を取られて家庭問題を直視しない藤井に、妻の洋子(池脇千鶴)が冷たく言い放つ「楽しかったんでしょ?」の一言はあまりにも強烈。まるで自分に言われているかのようで、思わずギクリとさせられた。事件の真相究明にのめり込んでいく藤井は、鑑賞者自身の姿を写しだす合わせ鏡そのものだ。闇の奥から、須藤と木村が鋭い目つきでこちらを覗き込んでいる。「お前も同罪だぞ」と——。
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