こたつむり

凶悪のこたつむりのレビュー・感想・評価

凶悪(2013年製作の映画)
3.4
自分の欲求を満たすもののために。
他者を攻撃し、搾取、排除を行うこと。
それが本作で描かれる“凶悪”。
後味がとても悪い作品でありました。

それもそのはずです。
本作の定義で言えば“凶悪”じゃないのは一方的に攻撃される側だけですからね。
机の上に積み上げられた札束のために。
今日食べるフライドチキンのために。
自分が正義の側に立ちたいために。
アイデンティティを保つために。
どんな理由であろうとも攻撃する側は“凶悪”な存在だと、描いているのですからね。

しかも。
映画を観ている僕らにも指を突き付けてきますよ。「おまえも“凶悪”なんだよ。のほほんと映画を観ているけど。他人事のような顔をしているけど。仲間なんだよ。積極的に、消極的に、通勤途中で、会社で、家の中で、攻撃しているだろう?」って。

でも。僕は言いたい。声を出して言いたい。
そんなこと承知してるから大きなお世話だ、と。

僕らは構造上、何かしらの生命をエネルギーとして補給しなければ成り立たない生物ですからね。搾取を否定したら存在できないのです。でも、積極的に他者を蹂躙することは社会の崩壊を招きますからね。道徳とか倫理とか概念とか思想とか色々なもので自分たちの魂を縛るようにしているわけです。それが人類の積み重ねてきた財産なのです。

だから、真に“凶悪”であるということは。魂を縛り付けているものから解放されている状態。“積極的に容易い気持ち”で攻撃すること、だと僕は思うのです。

と、前置き(或いは僕が“凶悪”ではないという自己弁護)が長くなりましたが、本作はその“凶悪”を描いた作品でありました。しかも、フィクションですけど下敷きは実話なんですね。踏み躙られた生命は実在していたのですね。それを思うだけで、ぎゅうって心が押し潰されそうです。

なので、あまり気軽に観られる作品ではありません。僕のように屁理屈でも良いから武装するか。善行を積み重ねて、傷つかない立ち位置を確保するか。

何かしらの対策を施してから鑑賞した方が良いと思います。
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