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凶悪のmatsuitterのレビュー・感想・評価

凶悪(2013年製作の映画)
3.8
ピエール瀧&リリーフランキーの演技が鬼。冒頭の逮捕までのシーケンスと、回想で酒を飲ませるシーケンスが非常に恐ろしくて良い。古典的だからこそ土地と金は強いというプロットに納得。山田孝之のクソ真面目顔もハマッていて、観た者は最後に凡庸な悪と出会う。傑作。

以下、ネタバレ。

脚本+演技推し。

なにより脚本が素晴らしい。冒頭の暴力+逮捕 → 告白 → 回想 → 取材・逮捕・裁判という流れは完璧で、一瞬も飽きることがない優れた構成だった。

リアル路線なので撮影・編集は地味だが、1番良かったのは回想シーン全般に流れる乾いた空気感である。土地持ちの老人から土地を殺して奪うか、借金漬けの老人を保険金を掛けて殺すかという古典的な手法が充分な現実味を持って、そしてあっさりと描写される。人をバラした後に肉を喰らう。スタンガンを当てて無邪気に笑いながら強酒を飲ませるシーンの生々しさ。変に劇的な演出にしていない点が逆に素晴らしく、内容から溢れるドス黒い重圧に戦慄と興奮を隠せなかった。

誰かが書いていた感想で、ピエール瀧がリリーさんに関係ない殺人の余罪を告白するシーンで唯一山田が大笑いするのが大きなターニングポイントというのがあった。それ以降山田孝之は目つきを変え、事件解決にのめり込み、逮捕+無期懲役では納得がいかなくなり、リリーさんを死刑にするまで追い込むという狂気に駆られていく。

脚本の面白さを底上げしているのは、ピエール瀧とリリーさんの2人が凶悪だということだけを描いた映画でないところである。山田の自宅では痴呆の母親の件で妻と揉め、妻は本音としての殺意を吐露する。回想で描かれた保険金殺人では、最終判断はピエール瀧やリリーさんではなく、その家族の同意だった。 最後、山田孝之が狂気じみた顔で記事を仕上げ、法廷で訴えた後、リリーさんへ面会で言われたこと。「俺を殺したがっているのはおまえだ」。 誰の心にも潜む凶悪さを浮き彫りにして物語りは終わるのだった。

演技もズバ抜けて良い。ピエール瀧とリリーフランキーの両者は役者ではないところから出てきた天才的性格俳優で、2人ともそこにその人として「実在」していた。このリアリティはこれからも演技の試金石となるだろう。

ネガティブな点。

リリーさんの仲間と思しき男性にインタビューに行ったところでその男性がトラックにひかれるあたり。とってつけたようなご都合主義の事故描写がちょっともったいなかった。もっと複雑な逃げ方をして不可避的にひかれるような描写でないと軽い印象になってしまう。

ピエール瀧が短絡的すぎるところ。別の組の男に騙されたり、リリーさんに騙されて舎弟を殺してしまったりする。実際に人を殺すぐらいの人間はこんなもんなのかな。

余談。

法廷のシーンで知り合いがエキストラ出演していたのでシリアスなのに噴いてしまったw

仕事をしていて毎日感じることなんだけど、金を稼げるアイディアを出せるやつには誰も頭が上がらない。力が強いやつ、凶暴なやつ、口がうまいやつ、頭がいいやつ、いろんな特技がある人間がいても、金を稼ぐ才能には勝てないのが現代劇らしいなと思った。

さらに追記。

宇多丸解説がまた良かった。彼の得意技である視点のスイッチ解説が本作では絶妙に効いている。回想のくだりではピエール瀧とリリーさん視点だったが、山田孝之がリリーさんの写真を撮るシーンをきっかけにまた山田視点に戻る。2人の視線が映像的に現わされることで、観ている我々がどちらサイドの人間なのかをうまくガイドしていた。
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