おなべ

凶悪のおなべのレビュー・感想・評価

凶悪(2013年製作の映画)
3.6
実際に起きた事件と知り背筋が凍りついた。劇映画としてもかなり洗練されていたが、それよりも衝撃的過ぎる事実の驚きの方がでかい。《白石和彌》監督の初の長編作品である本作は、ノンフィクションベストセラー小説『凶悪 -ある死刑囚の告発-』を原作として制作され、原作は実際に起きた凶悪殺人事件「上申書殺人事件」を基に、獄中の死刑囚が告発した殺人事件の真相を新潮45編集部が暴き、首謀者逮捕に至るまでを描いた犯罪ドキュメントである。撮影はたったの3週間で行われた。

収監中の死刑囚からスクープ雑誌「明潮24」に手紙が届き、ジャーナリストの藤井は送り主の死刑囚、須藤の元を訪れる。闇に葬られた筈の衝撃の真実を告発する須藤。藤井は須藤の言う、陰で殺人を手引きしていた「先生」と呼ばれる男について調べ始める。

猟奇的な殺人で金を稼ぐ冷徹な不動産ブローカーを演じた《リリー・フランキー》の怪演は言わずもがなだが、ほぼ同時期に公開された《是枝裕和》監督作品『そして父になる』での柔和な父親像とはあまりにもかけ離れすぎていて、その振れ幅のでかさに世間は驚かされたそう。しかし、ここ最近は何様のつもりであるのか、私は「《リリー・フランキー》なら当たり前の事だろう」「今に始まった事ではないだろう」と然程驚かなくなった。本当に何様のつもりであるのか。得体の知れない不気味な怖さ、笑顔で人を殺めるその様は「凶悪」そのものだった。

真相を告発した死刑囚を演じた《ピエール瀧》も同様に、「先生」同様冷酷非道でアコギな人柄を見事に演じており、刑務所内でのあのブチ切れ方は本家顔負けだったように思える。

死刑囚の須藤、「先生」と呼ばれる木村、2人の異常さは理解の範疇を超えていた。無邪気に笑いながらお金目当てで人を絞殺・生き埋めし、死ぬまで酒を飲ませ、平気でスタンガンを打ち続け喜び楽しむ。結果「先生」は無期懲役、暴力団組員は懲役20年(別事件で死刑確定)、その他加害者の家族は懲役13~15年の判決が下された。しかし、事実2人のような人間がこの社会に溶け込み平然と暮らしていると思うと末恐ろしく感じる。本作を通して、そのような世に蔓延る凶悪の種は今もどこかに芽吹き、社会に同化して次なる標的を探し息を潜めながら、どこにでも存在しているのだと感じた。
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