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ガラスの墓標のemilyのレビュー・感想・評価

ガラスの墓標(1969年製作の映画)
4.5
アメリカからパリに来たマフィアの殺し屋セルジュ。次のターゲットは麻薬組織のボスであったが、負傷してしまい、たまたま飛行機で居合わせた大使の娘ジェーンに再会し、彼女の家で世話になる。やがて二人は体の関係になるが、組織から追われる身となる。

セルジュ・ゲンズブールと、当時同棲中だったジェーン・バーキンの共演とあって、二人のラブシーンには二人ならではの世界感があり、それをのぞき見しているような気分にさせてくれる。
60年代終わり頃の退廃的なパリを背景にした、フィルム・ノワールで、冒頭から空間に物のように人間が無造作に置かれている。銃とドラッグ、血まみれの人たち。その退廃的な空間はまるで絵画のように、生が通っておらず、軽薄である。

繰り広げられる銃戦やカーアクションもどこかおもちゃのような偽物感が漂う。アクションに不具合な音楽を重ねることで、なんとも言えない異次元な空間を作り出すのだ。後半に行けば行くほど、独特の構図とスピード感、空間使いで、その映像の釘づけになったのは養鶏場のあふれる鶏の中での撃ち合いである。この斬新な空間で鶏の羽がバサバサと舞うシーンには魔力のような残酷な絵の中にどこから浮世離れした幻想感が漂う、一生忘れないであろうシーンである。正直このシーンを観れただけで、今作を見た価値を見出せるほど、個人的には印象深い。

セルジュの相棒ポール。
セルジュとジェーン。この三人の構図も非常に面白い。ポールとセルジュの間には性別を超えた友情関係が根付いており、よってジェーンにきつい対応をしてしまったり、二人が情事を営んでる際の手持ち無沙汰で色々動いてみるポール。犬の鳴きまねしてみたり、やたらとトマトばかり食べたり、女の裸をのぞき見して中継してみたり。彼の心情を描写するように、画面の左半分が壁で閉鎖的に二人を配置している。その窮屈感に締め付けられる思いがする。
対照的に数々の風情のある建造物や、シャンデリア、教会や美術館などの広がる奥行き感のある空間で、開放的に見せる。奥行き感のあるカフェや、鏡を使った映像でも印象的なシーンがある。特にポールは自分の姿を鏡に映し、違う自分を演じる。割れた鏡によりポールが3重に重なって見える映像には、彼の本当の姿が映ってるように思える。

ポップなフィルム・ノワールにラブシーンが重なる。しかしどこか偽物感が漂い、軽いタッチである。しかしそれは本当の姿を潜めているからのようにも思える。斬新な映像の数々や心情の描き方は非常に印象に残るものが多く、見終わった後の余韻も心地良い。ジェーン・バーキンのくるくる動く目に翻弄されて、二人のラブシーンに酔いしれる。しかしそれ以上にいろんな愛の形を垣間見る繊細な作品でもある。
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