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ローマでアモーレのtakのレビュー・感想・評価

ローマでアモーレ(2012年製作の映画)
3.7
ヨーロッパが舞台のアレン先生の作品はおとなしい印象がある。確かに過去にもイングマル・ベルイマン監督みたいな静かで物憂げな作品群(例えば「私の中のもう一人の私」や「セプテンバー」)もあった。でも最近のヨーロッパで撮られた作品はそれまでになかった落ち着きと品が感じられた。「マッチポイント」のエロティックな視線とサスペンス描写、「それでも恋するバルセロナ」の達観したような恋愛観、古きよき時代を回顧する「ミッドナイト・イン・パリ」。これまで、ウディ・アレン(時には別の男優)が口にする世間に対する皮肉や風刺は、僕らを笑わせながらも刺激してくれた。また、70年代に撮ってたお下劣なセックスコメディ(例えば「SEXのすべて」や「スリーパー」)も今ではストレートには撮りにくい題材になっている。そうした部分は最近控えめになっていた。

 しかし。イタリアの陽光を浴びたウディ・アレン先生は違った。新作「ローマでアモーレ」には、毒とキレのある台詞、昔の作品を思わせる下品な部分が見え隠れする。ウディ・アレン映画らしいエッセンスが盛り込まれた逸品である。ここ最近のアレン先生の作品には「クスッ」とさせるものはあっても、声出して笑わせてくれるようなバカバカしさはなかった。そういう意味では「ローマでアモーレ」は、最近の作風の洗練された印象は受けない。好きなテーマを、好きな台詞で彩っている。開き直ったようなアレン先生が見られる楽しい映画。シャワーを浴びると緊張が解けて美声で歌える男性を自分のオペラに出演させるエピソードは、たまらない面白さ。ローマに出てきた田舎ものカップルに訪れたトラブルは、イタリアという舞台だからこそハジケちゃったアレン先生らしいセックスコメディの真骨頂。イタリア語の響きが「SEXのすべて」の不感症エピソードを思い出させる。その騒動を乗り越えた二人は、最初よりも少しだけ自信に満ちた顔をする。経験は人を成長させる。突然パパラッチのターゲットになる一般人ロベルト・ベニーニの騒動も楽しい。
「なんでオレが有名なんだ?」
「有名なことで有名なんです」
もう理屈抜きの巻き込まれコメディに、僕らは心のどっかでかわいそうと思ってももう笑うしかない。

そしてアレン先生の映画、最大のお楽しみは男と女の恋模様。複数の物語が同時進行する群像劇はそれぞれに違う味わいだけど、それぞれに笑わせた後で男女の関係をちょっぴり考えさせてくれる。建築家を志す青年ジェシー・アイゼンバーグが、彼女の友達エレン・ペイジに夢中になっていくエピソードでは、アレック・ボールドウィンが恋の指南役・解説者(?)として唐突に登場する。これってアレン先生の主演作「ボギー!俺も男だ」で、ハンフリー・ボガードが突然現れて人生のアドバイスをする話を思わせる。恋することは自然なこと。それは成就するかどうかにかかわらず人を成長させてくれる。

アレン映画は豪華なキャストも魅力。真っ赤なミニドレスで登場するペネロペ・クルスはとっても魅力的。スペイン映画やイタリア映画で観る彼女は、ハリウッド製の映画でみる彼女とは全然違う。「それでも恋するバルセロナ」で演じた感情で生きてるような元妻役もすごかったが、今回は売れっ子コールガールを楽しそうに演じている。僕は、エレン・ペイジをアレン先生好みだろうと以前から思っていた。彼女も友達の彼氏を翻弄する小悪魔を好演。この知的な会話をひたすらしゃべり倒す女性は、アレン作品ではいけ好かない存在として出てくることもあるけれど、エレン・ペイジが顔近づけてあの視線でしゃべられたら誰でもクラクラする。とにかくしゃべりが上手いキャストでないとアレン作品は務まらない。今回も達者なメンバーで楽しい映画に仕上がっている。
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